それは突然のことだった。
「名前!」
「…千昭?千昭なの!?」
「俺以外に誰がいるっていうんだよ」
名前を呼ばれて振り返ると、そこにはもう二度と会えない筈の愛しい人の姿があった。
「どうして…?」
「なんだよ、嬉しくねーのかよ」
「ううん、嬉しい」
嬉しすぎて胸が壊れてしまうくらい、自分がどうにかなっちゃいそうなくらい、嬉しい。ああ、視界が霞んできた。
「おい、泣くなよ」
「嬉しくて、つい」
「泣き虫は変わんねえな」
くしゃくしゃと頭を撫でる手は、数年前と変わらなかった。何もかもが懐かしくて、思い出が現実とリンクしては涙になって溢れる。
わたし達は近くの公園のベンチに腰掛けることにした。
「俺、すげー頑張ったんだよ。だからこうして戻って来れた」
「行くって言ったのに」
「わりーわりー。でも待ってられなくてよ。本当は、あの時の名前に会おうと思ってたんだ」
「何よ、今のあたしじゃ不服なの?」
「ちげーよ。俺も成長しちゃったからいきなり老けた俺に出会ったらびっくりするだろ?」
「ああ、そういうこと」
まさか千昭に会えるなんて思ってもいなくて、高鳴る鼓動を隠して平然を装った。特に意味はないけど、それがバレてしまったら負けのような気がして。
「行くって、何で来るつもりだった?」
「そりゃ、研究して、開発して…」
「成果は?」
「……」
「だろうと思ったよ。俺が来て良かっただろ?」
「なんか負けた気分。でも、着実に開発してるんだからね!」
「はいはい」
何で千昭はこう、すぐにわたしの言葉を流すんだ。わたしが一生懸命、千昭に会いに行こうと、未来へタイムリープできるようなものを考えてるっていうのに。過去にいけるんだから、未来にだって行けるはず。未来に実在してるんだから、絶対作れるって、そう信じて。
「実はこんなのがあるんだけどよ」
「なに、これ…」
千昭は一枚の紙を出した。只の紙じゃなくて、きちんとした紙。それには過去で永遠に暮らすことができると書いてある。
「あんた何したの!?」
「何って…皇帝に、ちょっと良いこと。だから言ったろ?俺頑張ったって」
「凄すぎる…」
「こんな制度あるって、俺も知らなかったんだけどな」
国に関わる良いことを、千昭はこの数年を使ってしたのだろうか。それにしたって、過去の人間にタイムリープの存在を知らせてはならないくらいなのに永遠にそこに留まれるなんて、そんなこと…
「な、何で泣いてんだよ」
「馬鹿千昭。あたしの数年間の努力どうしてくれんのよ」
「えっ、本当にしてたのか?」
「してるわよ研究!このために必死こいてこの分野の勉強できる大学探して大学院まで行って…」
「こんな時にあれだけど、その、すげー嬉しいんだけど」
「知らないよそんなこと〜千昭のばかぁ」
そうしてまた、わたしの頭に手を置いた。わたしの努力は千昭の世界を見るために使えばいい、そう思えた。千昭が住んでいる時代、聞く限りでは今よりずっと悲惨だけど、それでもわたしは見たい。彼が育った場所を、時代を。
「で、行くとこないから泊めてくんね?」
「最初からそのつもりだったんでしょ、どうせ」
もし、わたしに彼氏がいたらどうしたのかしらね、なんて有りもしないようなことを心配してみる。たったの数年だけれど、人の心を変えてしまうには十分すぎるくらいだ。それでもわたし達は変わらずに、お互いを信じて今こんなところにいる。
「それと」
「まだあるの?」
「絵、ありがとうな」
全てが、繋がった気がした。
120616