ただぼうっと、彼の身体が冷たく固くなっていくのを眺めていた。主を無くした部屋をのベッドの上に腰掛け、天井を見上げる。そこにはただ白があるだけ。所々に細かな赤い点が見える。なんだか懐かしい気がするのはどうして。
どのくらいそうしていただろう。
「名前!」
「…つなよし」
どうやら、お迎えが来たようだ。流石に帰らなければ。
「お前のその、殺人した後にその場に居座る癖を直せ」
「此処にいたら綱吉が来てくれるじゃない」
「もし、何かあったら…!」
「わたしはそんなヘマしないわ。わかってるでしょ?」
それきり黙ってしまった。本当はわかってる。わたしを迎えに来る為だけに綱吉を呼ぶことは迷惑であり、非常識であることを。でも、耐えられないのよ。人は躊躇無く殺せる。その代わりに人の温もりが酷く恋しくなるの。自分でも最初は直そうとしたわ。でも無理だったの。だから諦めた。
「今日は独りで帰ってくれ」
「!?どうして!」
「俺は此処に残る」
「その方が危ないわ!」
「じゃあ次からはちゃんとすぐに帰るって約束してくれるかな」
「……」
だから、無理なのよ。どうしても身体が言うこと聞いてくれないの。
「他の奴を寄越せばいいかな」
「……」
本当は綱吉がいい。でも、そんなの我が儘だ。綱吉は全てわたしの物である程、安い人間じゃない。綱吉はわたしの物ではなくて、ボンゴレの物なのだ。死ぬまで一生ついて回る。それはもう変えられない事実なのだから。わたしだって、綱吉について回るつもりだけれど。
「キスしてあげるから」
そう言って本当に、わたしの唇にキスを落として「さぁ、行った行った」と言葉をかけた。血の匂いが残るキスだった。
*****
基地に着いた。だるい身体を引きずるようにしてなんとか入ったロビーはざわついていた。いつもより幾らか人数が多い。
「あっ、名前!」
「…山本」
「あの、凄く言いにくいんだけどよ…ツナが、死んだ」
「………は、」
「見てみろ、彼処に獄寺がいる。わかるだろ?嘘じゃない」
「なんで、どうして…」
さっきまでわたしと一緒にいたのに。いつも通り迎えに来たのに。どうしてそれが死んだことになってるの?意味が、わからない…
「リボーンさん!」
「……」
「どういうことなんですか!」
「……」
「黙って無いで何とか言って下さいよ!」
「…本当に何もわからないのか」
「なんですか、理由があるんですか」
「ツナを殺したのはお前だ」
「は!?そんな訳…わたし何もしてない!!」
「お前が任務として殺した奴、それがツナなんだ。お前の目を疑ってる訳じゃない幻覚を見せられていたんだ」
「そんなっ…」
世界で唯一、わたしを救ってくれた彼を、一番優しいマフィアの彼を、あたたかい彼を、
わたしは殺したのか。
「うわぁああああぁぁあああ!」
嫌だ、綱吉がいないなんて嫌だ。もう、生きてなんかいけない。あの時、綱吉が来たとき、わたしも一緒に死んでしまえばよかった。何の役にも立たない厄介者のわたしなんかが残るより、綱吉は残らなきゃいけない存在だったのに。綱吉の血の匂いを懐かしく思うなんて。ああ、狂った状態のわたしを止めるには綱吉の力じゃ殺すことになるから、逆に自分から殺されたのかもしれない。綱吉は痛い程に優しいから。
「お前の所為で、」
「そうよ、わたしが殺したのよ!殺して、誰かわたしを!わたしが死ねばッ」
「おい、よせ」
「死ねばいいんだ、」
「本当にそう思ってるのか」
「だってそうでしょう!?」
「何のためにツナがお前を残したのか」
「……」
「考えろ」
そんなの、わからないわよ。
120609