※百合
「みなさーん!楽しんでますかーっ!」
ミクの可愛らしい声に応えて、野太い声が会場一杯に広がる。今日はVOCALOIDSの初音ミクオンリーのコンサートだから、きっと男性が多いんだろう。別に女性ファンが少ない訳じゃないけれど。ほら、あそこにも男性に紛れて女の子2人の姿が見える。
「今日は態々わたしの為に、ありがとうございます!最後まで楽しんで行って下さいね!」
どうも、その全員に平等に与えられたものが、気にくわなかった。ミクの声は、わたしだけのものである筈なのに。なんて、そんなことは言ってられない。だってVOCALOIDSなんだもの。アイドルにそんな我が儘は通用しない。
煌びやかなステージの上で、その長い青い髪を揺らす。あのツインテールは朝わたしがやったものだけれど、きっと専属ヘアメイクさんがやり直しているのだろう。
*****
「たっだいま〜」
「おかえり」
今日隠れて貴女のステージを見に行ったのを知らないでしょう。知らせるつもりもないけれど。ステージ終了後、直行で自宅に向かえば、後片付けや着替えがあるミクより早く家に着くことは用意だもの。
「お疲れ様。どうだった?」
「楽しかったよ〜オンリーは初めてだったけど新鮮!」
「そ、それはよかった」
そう言って抱きしめた。この子はわたしのものだから。誰にも渡しはしないから。そう想いながら。
「ねえ、頑張ったのキスは?」
ああもう、そんなこと言うから。
今日は何処まで理性を保っていられるだろうかと頭の片隅で考えながら、柔らかい彼女の唇に口付けを落とした。髪を結んでいた白いリボンは玄関先に落ちている。
120608