※酷い









「双熾」

「はい」

「…抱いて」


 多分、名前さまの様子から見ると、名前さまが長くお付き合いをしていた方に、振られてしまったのだと思われます。相手のことを忘れたくてそんなことを僕に言うのでしょう。でもそれは、狡くはないのでしょうか、名前さま。


「僕には出来かねます」

「どうして。貴方はわたしの犬でしょう、わたしに刃向かうの」

「…では、宜しいのですか?」

「……」


 沈黙は肯定だ。今までずっと、そうやって生きてきた。ずっと。
 暗い部屋の中、放たれた一枚窓の奥、目立つビルの光を、名前さまはじっと見ている。
 そっと、名前さまをベッドに押し倒した。

 汚れた自分などが、名前さまに触れていいのか、けれど名前さまがそれを望んでいるのなら…なんて、自分を正当化するのです。今の僕と名前さまの間に、正しさも何も無いというのに。
 自分でも驚くくらい、ゆっくりと、じっとりと、ことを進めていく。心此処に在らずといった様子の名前さまとは、一切視線が合わない。そんな名前さまを羞恥の底へ追い込みたくて、余裕が無いのを見たくて。僕は首筋に舌を這わせた。それでも身体は正直で、ただそれだけの刺激でびくりと震えている。そのまま舌を耳の中に入れ、脳や思考までもを犯す。少し、余裕が無くなってきたのか、顔をしかめている。でもまだまだだ。抱くからにはきっちりと、ねっちりと、愛情を受け取ってもらわなければ。


「名前さま…」

「ふっ、喋るなっ…!」


 声を我慢しているのがわかる。けれど、我慢しなくていいのですとは言ってやらない。僕はそんなに、優しくありませんから。
 精々そうやって、無意味に快楽と戦っていればいいのですよ。

 服の中に手を忍ばせると、また身体が震えた。名前さまの柔らかな白い肌を堪能するように、腹の上を滑らせる。そのまま、ブラジャーの上から胸を触る。なかなかことが進まない苛立ちと、もどかしさから僕を睨み付ける名前さま。確かに、僕を煽らせるには良い手段かもしれませんが、今は不必要です。貴女を悦ばせるのが目的ですから。


「っ〜〜」

「強情な人ですね、さっさと鳴けばいいものを」


 またキッと僕を睨み付ける。内心では、犬の分際で生意気な、とか思っているんでしょう。でも、先程とは違う、直に胸に与えられる快楽に堪えるには声を抑えなければならない。さぞや屈辱でしょうね。
 敢えて気持ちのいいところを外す、そうやってもどかしさに震えていればいいのです。だって、そうじゃなきゃ、つまらないでしょう?

 脳内までもを溶かすようなキスをして、何も考えられなくしてやる。僕で一杯一杯になればいい。前のあんな男なんて思い出せなくなればいい。元々、僕は気に入らなかったんだ、あの男。
 段々と息があがってきた様子と、朱く染まってくる頬を近くに見ながら、邪魔な布の上から一度だけ撫で、するりと脱がした。勿論片足にかけたままで。


「しかし名前さまは、本当に狡いお方ですね」

「どういう、意味、だっ…」

「そのままですよ。振られたのを相手の所為にし、慰めに僕を巻き込もうとなさる。お気になさらなくて良いのですよ、僕は名前さまの犬ですから」

「そんなことっ」

「よく今まで仰りませんでしたね、ちゃんと触ってと、激しくしてと」

「…あッ」

「忘れたいのでしょう?」

「いっ、…ふ」


 名前さまはもう、喘ぐので精一杯だ。それでも声を抑えようと必死な姿が可愛らしく映る。いつまでその強気な姿が保ちますでしょうか。
 きっと、異物感が大きいのだろう、身じろいでいらっしゃる。それもその筈、僕は手袋を外していないから。やりにくさはあるけれど、構いはしない。それよりも、この期に及んで脚を閉じようとする名前さまに腹が立つ。やんわりと脚を開かせ、その間に脚を入れた。もう閉じることはないように。

 ゆっくりと、正確に、名前さまの中を這い回る。それでもまだ、声をかみ殺し、息だけを、吹いて。たまに漏れる声を聞いて手を動かせば、更に声が聞けたりして。何とも愛おしい。


「こっちを向いて下さい、名前さま」


 空いている手で、顔に手を添えて此方へ向かせる。やっと目が合ったその視線の先、瞳に熱が見えた。その可愛らしいお口で、名前を呼んで下さい。


「も、むり…」

「どうぞ、いって下さい」

「…っ、ふああぁあっ!」


 イイトコロを刺激してやれば名前さまは簡単に達した。大きく肩で息をしている。
 そういえば、淡々とこなしている自分に驚いた。最初の時もそうだった、一歩ずつ順序を踏んで、一つ一つをこなしていった。こんなにゆっくりでは無かったし、余裕ももっとあったと思う。
 名前さまにあれこれ言っているけれど、本当は自分だって余裕がないのだ。繕って、名前さまのまえでボロを出しはしませんが。


「え…?」

「おや、まだ足りませんか?強欲な人ですね」

「…待って」


 名前さまの秘部に手を伸ばしたところで、制された。やっと、おねだりでしょうか。


「…双熾が、いい」

「なりません」


 名前さまが僕にねだって下さるのは嬉しいですが、駄目なんです。貴女にはもっと、苦しんでいただかないと。


「名前さまの前で、自分までも気持ち良くなろうなどと、そこまでは望んではおりません。分はわきまえております」


 名前さまの僕への苛立ちが、手にとるようにわかった。




脆く確かな糸


□□□□
四巻までの情報で似非双熾。初えろになります、よくわからない…_ノ乙_(、ン、)_そーちゃんならえろ書けるかなーと思って書いてしまった。お粗末様でした。

120512

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