「あっち〜」

「おっかえりー溶けるう」

「はい、ガリガリ君」

「さんきゅー。お前は?」

「ハーゲンダッツ。あざっす!」

「ってめえ!他人の金だと思って!」

「パシる方が悪いのよん」


 いつもより遅くに来た佐久間に好きなアイス買って良いからコンビニ行ってきてって頼まれた。わたしは随時前から此処にいて、結構根も詰まってたからそれを引き受けたの、気分転換にね。どーせ佐久間の金だし、ここ一年は食べてなかったハーゲンダッツ買っちゃった!あ、無いと可哀想だから健二くんにはバニラね。そんなわけでわたしの心はるんるん!


「名前がせめてチューペット系にしてくれりゃなあ」

「何でもかんでも自分の思い通りになると思ったら大間違いよ!このド変態!」

「これが標準だって」

「えー健二くんあんなに初々しいのに!」

「えっ」

「健二は草食系代表だから」
「そんな訳じゃ…」

「佐久間だって肉食系じゃないでしょ」

「俺はロールキャベツだし」

「何それ」

「見た目は草食、中身は肉食。その名もロールキャベツ系男子…!」


 そのドヤ顔やめろよ。いつもより眼鏡輝いてるよなんとかしろ。


「それに名前敬なんだからもっとわたしを敬えよ!わたしコンビニまで行ってきたんだぞ!」

「逆だろ。お前が俺を敬うんだよ。俺の名前は敬う人じゃなくて敬えだからな!」

「うっざ!」


 何で佐久間はこんなにわたしを苛々させるのが上手いんだろう。そんなの上手だって何にも良いことないわ!癒やしを求めて健二くんを見ると「佐久間、いただきます」なんて言ってフタを開けているところだった。あれ、私へのお礼は?さっき言ってたか。健二くんもバーゲン久しぶりだったのかな、だからそんなに笑顔なのかな。これにして良かった!


「名前なんで健二ばっか見てんだよ」

「え、なんなんすか健二くんのこと見ちゃいけないんすか犯罪ですか何罪ですか健二くん凝視禁止罪ですか!もしかして、寧ろ嫉妬っすか。フラグキター!」
「うるさ」

「あ、サクマ怒られてるよ」

「うっそやべえ!」


 あっはは!変態だからメンテチーフに怒られちゃうんだよーだ!ほら、健二くんはアイス食べながらちゃんと仕事してるし。さーて、わたしもアイス食べながら作業やりますか!


「ってデータが無い!?あれ!?」

「ざまぁみろ〜」

「お前がやったなこのアホザル!」

「は?俺一度もお前のパソコン触ってないし何言っちゃってんの?」

「…はぁ」


 また最初からやり直しか…。課題データがまっさらだ。こんなことならちゃんとこまめに保存しておくんだった、自分のバカ。もうあとの祭りだ…。


「ちょっと貸してみ」

「メンテ作業は?」

「今休憩もらった」


 わたしの身体の後ろからにょきっと腕がのびてきて、わたしのパソコンのキーボードを叩く。え、あの、佐久間、近くない?顔とか、無駄に。


「あった」

「嘘っ!?」

「本当。ほら」

「わー凄い!本当に出てきた!佐久間神!」

「だろ?パソコンなら俺に任せろって」

「感謝感謝」

 はあ良かったぁ。これで期限に間に合うよ。担当教師、期限に関して厳しいからなぁ。今成績悪くなったら困るし。


「ってアイスアイス!うひょー溶けてる!」

「苗字さんスプーン!これ!」

「ありがと!あまっ!うまっ!」

「騒がしいなぁ」


 何よ自分は涼しい顔しちゃって。あ、もうアイス食べおわったし、自分だけバーゲンじゃなくてガリガリ君だから悔しいんだろそうなんだろ!ざまぁみろだ。


「いただきっ」

「あっ────!」

「やっぱバーゲン旨いなぁ」

「ちょ、何、他人のアイス食べて」

「だって俺のお金だし」

「しかも、スプーン」

「あ、名前もしかして間接キ、」

「あ───────────!」

「うるさ、顔赤いし」

「そんなことない!」

「そんなことある」

「ない!よね健二くん!?」

「な、健二!」

「う、う〜ん?」


 ダメだコイツ。やっぱり草食系だ。別に間接キスが駄目な訳でも初めてな訳でもない。けど、例え相手が佐久間だろうと誰だろうとそんなことされたら気になり始めちゃう訳で。


「赤い、かな?」

「言わなくていい!あーもう!」

「健二くん帰ろーってあれ、名前ちゃんどうしたの?」

「ほっといて下さい…」

「そ、そう?相談ならいつでも乗るからね!じゃあ健二くん、行こう」

「佐久間、苗字さんまた明日!」

「じゃーなー」

「ばいばい…」


 夏希先輩はいいよね、健二くんという彼氏がいるから、というか健二くんだからこそ、こういうことを悩んだりする事はないんだろうな。


「なあ名前」

「さっきから何さらっと名前で呼んでんの」

「名前が健二くんって呼んでるのと同じだよ」

 呼び捨てと「くん付け」とでは全然違うよ、という反論は心の中だけにしておいた。きっとまたすぐに言い返されるから。


「ていうか顔近くない?」

「意図的にしてるからな」

「何で?」

「言ったろ?俺ロールキャベツだって」

「…えぇええ!?」

「気付くのおっそ、




茹だる昼
まだ夏は始まったばかり

120503

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