ガチャン、と鍵を回す。最近は自転車盗難が多くて困るなあ。今日の朝礼でも先生言ってたし。まあ、学校で自転車盗難なんてあるわけないけど。


「苗字さーん」

「あっ、菅原くん」


 振り返るとそこには菅原くんがいた。同じ、クラスメートで、わたしにとってはそれだけではない人。
 ジャージのままの菅原くん。ちょっと熱を持ってるみたい。


「これから帰る?」

「うん。菅原くんも部活終わり?」

「うん」


 特に声を交わすではないけれど、わたし達は一緒に帰ることになった。自転車をカラコロと鳴らすわたしに、菅原くんがついてくるからだ。菅原くんと一緒に帰ることなんて初めてで、胸がどきどきしてしまう。


「バレー、大変だね」

「そう見える?」

「うん、つらい練習してきた後って感じする」

「けど、楽しいから」

「……そっか」

「苗字さんは? 写真部楽しくないの?」

「勿論楽しいよ。けど部員が少なくなってて。今年入ってくれるかな」

「俺も。今年入ってきてくれなかったらやばい……」

「菅原くんとこは、大丈夫でしょ。バレー今話題だし」

「そうかな?」

「うん」


 けど写真部は、この時代に本物のカメラを持ってやるのは古くさいとか言われて、何だか人数が減ってきているのだ。まあ確かにスマホやアイフォンでもそれらしい写真は撮れるけどさ。わたしはこのカメラの温もりが好きなんだ。分かってもらおうだなんて全然思ってないから、いいけど。


「……」

「…えーっと、俺、聞くことくらいしかできないけど、なんかあったら、言ってね?」


 急に黙りこくったわたしを心配してくれたのか、菅原くんはそう言った。彼は誰にでも優しい。分け隔てなく接してくれる。だから好きになったんだ。菅原くんにとってわたしなんかどうでも良い筈なのに、こうやって心配してくれる。写真部ってことも、覚えてくれてたし。


「ありがとう。なんかあったら、菅原くんのとこ行くね」

「待ってるべ」


 彼は綺麗に笑った。部活で出たであろう熱は、もう随分引いている。


「この約束の交換条件と言っちゃアレなんだけど、」

「うん、なに?」

「俺と、付き合ってくれない?」


 菅原くんと、付き合う?誰が?わたしが?いや、そんな、まさか。あ、それに今日は4月1日、エイプリルフールだ。そうやってわたしをからかおうとしているのかもしれない。もしかして、菅原くんにわたしの気持ちバレた、とか…。隠しているつもりだったのに、菅原くんには全部お見通しって訳か。


「じょ、冗談でしょ? 今日エイプリルフールだし」

「あ、そうか、今日エイプリルフールなのか。なんつータイミングで俺……」

「す、菅原くん?」

「あ、でもほら、エイプリルフールに嘘ついていいのは午前で、午後はネタバレだったよね。 てことは?」

「嘘、じゃない?」

「俺、苗字さんが好きなんだ。付き合ってくれないかな」


 両片思いだったんだ。知らなかった。差し出された手に、そろそろと触れて。


「……お願いします」

「良かった。こっち向いて」

「……」


 どうしようもないくらい顔に熱が集まって、恥ずかしくて顔なんか上げられない。けど、すっと菅原くんの手が視界に入ってきて、気が付けば菅原くんと目が合っていた。


「好きだよ」

「わたしも、菅原くん、好きです」


 どれくらい見つめ合っていただろうか、わたしにはとても長く、永遠を感じさせるものであった。幸せって多分、こういうことを言うんだろうな。


「写真、撮ってもいい?」

「いいよ」

「記念に残したいから」


 鞄から大好きなカメラを取り出して自撮りの持ち方に変える。自撮りは得意ではないし、この子の得意分野でもないけどここは愛嬌で。じゃあ撮るよ、そう声をかけるときゅっと肩を寄せられた。


「そんなんじゃ写らないべ」

「そう、だね」


 震える手先でシャッターを押して、確認するとなんとか2人は収まっていた。から良しとすることにしよう。


「撮れてた?」

「うん」

「その写真ちょうだい」

「分かった、焼くね」

「俺苗字さんの写真好きだよ。なんかあったかくて」

「そう、かな」

「また写真撮ったら見せてよ」

「うん」


 菅原くんがわたしの写真を好き、とか。嬉しいことこの上ない。撮った写真を見せるのは恥ずかしい。けど、菅原くんにならいいかもと思ってしまう自分がいる。


「帰ろうか。自転車貸して」

「? はい」

「苗字さんも後ろ乗るんだよ?」


 わたしの自転車に跨がって菅原くんは言う。自転車に乗っている菅原くんは初めて見たけど、様になるなあ。


「先生に見つからないかな?」

「逃げちゃえばいいべ」


 さ、乗って。そう促されて乗る菅原くんの後ろ。やばい、どきどきする。心臓壊れそうだ。


「ちゃんと掴まってね」


 わたしの腕を取って、自分の腹へ回した。ええええ急に菅原くんの身体、とか……。細い、けどちゃんと運動してる分しっかり筋肉がついてる。


「大丈夫? 名前」

「……菅原くん、確信犯だよね」

「バレたか。じゃあ行くよー」

「わっ」


 火照る頬を菅原くんの背中にくっつけた。せめてもの仕返し、のつもり。人物像は苦手だけど、菅原くんは撮っていたいと思う。彼女権限で、毎日撮らせてもらえるだろうか。




□□□□
4月1日ってまだ春休み中じゃんどうやって会わせるよ……部活やらせればいいんだ! ということで写真部。何となく文化系にしたかったのだけど、写真部って4月1日に学校に出てくるようなアクティブな部活じゃないよなと書いた後に気付くという…すみません。分かるとは思いますが一年ズが入ってくる前のお話です。拍手ありがとうございました!

130401

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