※執事アレン












「駄目。やり直し」
「ええーまたですかー?」


 多目的室に何度も同じ言葉が響く。


「出来なかったら出来るまで何度も。それがわたしの指導方法よ」
「カップが鳴ったくらいで……」
「くらい!?それが大事な会議中だったらどうするの?主人の声がカップの音で聞こえなくなったら……!」
「カップくらいで声聞こえなくなるなんてことないと思います」
「それにアレン、貴方英国の出じゃなかった?」
「う、」
「『英国紳士としての振る舞いには自信があります!』だなんて、よく言ったものね」
「そんなに苛めないでくださいよ!」


 アレンは入ってきたばかりの頃、皆の前でそう言ったのだ。だから少しは期待していたのだけれど……


「はい、もう一度」
「チッ」
「……今舌打ち、した?」
「してません」
「いいわ今日のレッスンは終わり。あとは1人でやってなさい」
「そんなあ!」


 舌打ちだなんて初めてだけど、アレンは溌剌とした少年と見せかけといてたまに黒い部分が垣間見える。それが現れるのも時間の問題でしょうな。わたしだって本当は、こんなガキの世話なんか……!でもリーバーさんを思うとそうも言ってはいられない。そもそもこんな訳のわからないガキを拾ってきたのは主人であるコムイ様なんだ!困ってるから助けてあげてね〜、じゃない!自分で蒔いた種を周りの人に押しつけて処理に追われるこっちは大変なんだから。そんなリーバーさんの頼みとあっては断れない。だからアレンの世話を見るのは仕方がなく、なんだ。


「ちょっとやりすぎじゃない?」
「ミランダが優しすぎるだけ。アレンが懐いたらどうするの」
「どうするのって…まだ15歳の子供なんだし」
「仕事を与えられたら甘えなんか一切通用しないの」


 自室に戻ろうと廊下を歩いていると、ミランダがいた。どうも行く方向は同じなようで自然と一緒に歩くことになる。
 ミランダはいつも優しい。包容力が他の人とはまるで違うのだ。でも、なっていない新人を甘やかすのとは訳が違うのだよミランダ。新人こそ自分で考えて動けるように鍛えてやらないと。


「大丈夫、ミランダ。アレンはわたしに任せて」


 有無を言わせない笑みで別れ、わたしは給湯室へと入る。


*****


「今日は終わりなんじゃなかったんですか」
「見てるだけよ。ちょっと休憩しましょ」
「紅茶に、みたらし団子じゃないですか!」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、大好物ですよ!」


 ありがとうございます!そう言ってかぶりつこうとしたところをピシャリと叩いた。なってない。てんでなってない。


「何するんですか!」
「目上の人が口を付けてから。常識でしょ?わたしだったから良かったものの、他の者の前でやってごらんなさい。仕事もらえなくなるわよ」
「どこが見てるだけなんだ」
「何か言った?」
「イイエ!」


 わたしが紅茶に口付けるのを見てから、団子を食べた。それももの凄い勢いで。前々からよく食べる子だと思っていたけれど、こうも早く食べるのなら胃への負担が相当かかってるんじゃないかしら。
 それにしたってみたらし団子が好物って。アレンは英国の子でしょ?昔に比べたら国際化が進んで色々な文化を各地で見られるようにはなったけど……みたらしなんて滅多に見ないし。以前日本に行ったことがあるのかしら?


「みたらし団子、どうして好きなの?」
「え?美味しいじゃないですか」
「そうじゃなくて、これ日本の食べ物よ?」
「ああ。まだイギリスにいた頃、お腹を空かせて道を歩いていたら優しい方がくれたんですよ。初めて食べる上に空腹で、そのときから大好物です」
「……それ、いつの話…?」
「ええと、十年くらい前でしょうか」
「……嘘でしょ」
「どうかしました?」


 十年くらい前。親に連れられてイギリスにいた頃。仲間の日本人とジャパニーズカフェみたいなのをやっていた。子供のわたしは学校の合間に親の手伝いをしてそれなりに楽しく暮らしていたんだ。ある日、呼び込みをしていると通りかかった小さな男の子がふらふらと歩いているのを見るに見かねて団子をあげたのだ。後でわたしはこっぴどく叱られたのだが。


「そういえば名前さんって日本人でしたっけ」
「……それ、わたし」
「え?」
「十年前、イギリスにわたしもいたのよ」
「でも、子供でしたよ?」
「今年で19!十年前は9歳だから!」
「じゃあ本当にあの時の…?」
「でも茶髪だったような気がするんだけど」
「僕変な薬買わされて白髪になっちゃったんですよ。だからその頃は茶髪でした」
「……こんなことってあるのね」
「名前さんあなたは僕の恩人だったんですね!」
「いや別に…」
「昔からそう思っていました!あの時みたらし団子をもらっていなかったら僕は此処にいない、こんな美味しいみたらし団子も知らない、そうでしょう!?これはきっと、運命なんですよ!」
「媚びたって指導は変わらないわよ」
「チッ…」


 あ、また舌打ち…!上司に向かって舌打ちとは、やはり教育し直さないと駄目ね。これじゃあリナリーお嬢様にお目にかかれるのも随分と先だわ。


「何か楽しそうですね?」
「そう?」


 あの時の空腹少年がどう成長するのか、見せてもらいましょうか。




□□□□
アレン15歳、くらいで。国は英国でも日本でもない場所で。書いてて楽しかったです。執事アレンと言えば非の打ち所がなく完璧な青年なイメージなんだけど、こういう少年もイイネ!

140308

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