「ねぇお風呂、一緒に入ろ?」


 腕に絡みついて精一杯のお誘い。それもこれも、飛雄が焦るところを見たいから。飛雄が焦ってるときの表情や行動や言動が、わたしの母性本能を擽る程に、かわいいから。だから照れて焦る飛雄が見たい。そう思っただけなのに。


「おう」


 飛雄はそれだけ言って立ち上がり、わたしの腕を取って連れて行く。え、あれ?焦る飛雄は?こんな、余裕かましてる飛雄が見たかった訳じゃない。それにこういうときの飛雄はわたしの言葉なんて聞き入れないで好き勝手しちゃうときの、飛雄だ…。


「ち、ちょっと待って!」
「んだよ」
「何で急に一緒に入る気に…?」
「お前が誘ってきたんだろ?」
「それは、そうなんだけど…」
「ほら、行くぞ」
「いや、でも…」
「まさか誘っておいて一緒に入れないだなんて言わないよな?」
「まさか!そんな訳ないじゃない!」


 あー言質採られた。これでもう後には引けない。お風呂の中って明るいから、恥ずかしいんだけど。


「じゃあ行くぞ」
「うう、待って!」
「もう待ったは聞かねえ」
「うわっ!ちょっと!降ろしてよ!」
「うるせえ」


 やっぱりわたしの言葉なんて聞き入れない。あんなに逞しい筋肉を持ってる飛雄ならわたしを抱き上げるくらい雑作もないことなんでしょうけど、でも、彼女の言葉を聞き入れないってどうなの!?いや、わたしも十分矛盾したこと言ってるって、わかってるけどさ。ああもうこれだから王様は!


「脱げ」
「は!?何で見てるつもりなの!?」
「だって俺先に入ったらお前逃げるだろ」
「なっ、逃げないわよ!」
「そ。じゃあ俺先入るから、逃げるなよ」
「っ」


 最後にわたしを睨み付けて浴室に入っていった。いつの間に彼女の前で恥ずかしげもなく服を脱ぎ捨てることができるようになってたの。わたし、わたしはそんなことできない。飛雄が前にいるって意識するだけで恥ずかしいし、裸で飛雄が待ってる明るいところに行くなんて…でも逃げないって約束してしまった。これだったら絶対先に入ってた方が良かったなあ…


「おい」
「っ!?な、なに!?」
「おせーよ。まだ脱いでもいねーじゃねえか」
「うわっ」


 待ってなんて制止の声なんか聞こえていなくてわたしの服が濡れるのも厭わずに抱きかかえて浴室に文字通り『強制的に』入れた。鼻先を掠めた飛雄の髪からは爽やかな香りがした。


「いつまでぼーっと突っ立ってんだよ」
「え?いや…」
「脱がせてやるからじっとしてろ」


 なんという王様発言!もう絶対わたしの声なんか聞き入れないってわかったから抵抗の言葉を並べるのもやめた。飛雄の細くて骨ばった指がわたしのお腹に差し入れられる。いつもみたいに冷たい指じゃなくて少し温まった濡れた指。飛雄はお腹の辺りを撫でている。真剣な表情。


「ねえ、脱がすんじゃなかったの?何堪能してるの?」
「あ、わりぃ。腕上げろ」
「ばんざい?」
「ん。ほら、ばんざーい」


 トップスの裾を持って捲り上げる。ばんざーいとか、言っちゃうんだ…かわいすぎでしょう…あーもう死にそう。飛雄がかわいすぎるのもそうだし、今わたしはブラだってことも。


「あ!」
「もう脱いでやる!向こう向いてて!」
「イヤだ!」
「何で!」
「見たいから」
「変態!」
「変態でもいい」
「だめ!いいから向こう向いてて!」


 腕をとって目隠しさせると盛大な舌打ちが聞こえた。とりあえずくるりと180°回転させて、息をつく。きっと耳を澄ましているだろうからあまり音を立てたくないんだけど、スカートを脱ぐときのジッパーの音とか、下に落ちる音とか、気にしてる自分も自分だけど、これ聞いて何考えてるんだろうって。気になってしまう。目の前にある飛雄の背中は、やっぱり広くて逞しい。
 ガチャリ、浴室のドアを開けて脱衣所に投げ捨てる。そしてすぐさまシャワーのコックを捻った。


「おいお前終わったんならなんか言えよ!」
「そんな義務ないし。飛雄も早く湯船入りなよ」


 誰が脱ぎ終わったよだなんて言えるか彼氏に!そんなのイコール見てくれって言ってるようなものじゃない、そんなことできるわけない。


「髪洗ってやる」
「え」


 見ると既にシャンプーのボトルのポンプを押しているところだった。飛雄は既に頭を洗ってしまっているし、大人しくシャンプーされるしかない。もう出しちゃったのを流すのは勿体ないし。


「静かだな」
「うん」


 人に髪を触ってもらうのって凄く気持ちいいし眠くなると思うんだ。それに普段ボールを大切に扱っている所為か、とても優しいし。うん、眠くなってきた。


「流すぞ」
「うん」


 ちゃんと目に泡が入らないように気を遣ってくれているのがわかる。気持ちいい。


「ねえねえ」
「ん?」
「眠い」
「ハァ!?」
「う、るさ……」
「起こしてやる」
「はっ!?ちょっと、待って」


 『待て』で待つような利口な犬ではない。いつの間にかシャワーは床に落とされ、飛雄の指がわたしの身体を滑る。あーあ、お湯、勿体ない。


「身体まだ、洗ってない」
「別にいいだろ」
「よくない、きたない」
「散々待たされたんだ俺は。今更お預けなんてくらうかよ」


 そう言いはなった彼の目は、獲物を前にしたオオカミと同じで。もう絶対に止められやしない、そう思った。




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あけましておめでとうございます新年最初がこんなネタ……煩悩だらけの年になりそうです。いや、本当は年明け前からこのネタ書いてたんですけどね。落ち無し本番無し、で申し訳ありません…今年は裏なるものを書くようになったりするのだろうか…gkbr 今はまだ書けません、はい。

140103

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