「何で何も言わないんだ」

「言ったところで誰も信じないからですよ」

「そんな決めつけないでさ。言ってみなきゃわかんないじゃん?」

「怒ってる訳じゃなく、どうして一般人が隔離施設でうろうろしてるか聞いてるだけなんだが」


 本来関係者しか立ち入ることの出来ない潜在犯隔離施設に未登録者が侵入した。歳は25、6くらいの女性。まだまだ若い。サイコパスもクリアカラーで何か悪いことをしようとしているとは思いにくい。というか、俺が思いたくないだけかもしんねぇけど。こいつには自由な未来が残されてるってのに何でこんなこと。


「なんか言ってくれねぇかなあ」

「お話するようなことは、なにも」

「色相も全然濁ってねえけど、解決するまで留置ってこともあるよ?」

「……」

「お願い、話してくんねぇかな」


 留置されるのはやっぱり困るらしい。俺らとしても早く解決させたいし、正直言ってまだ対処とか決まってねえから嘘言っちゃったけど、隣のギノさんも黙ってるしいっか。


「わたし、職業サンタクロースをやっております」

「は、」

「え?」


 彼女の口から出てきた言葉は季節に沿ったもので今は冬。確かにもう少しでクリスマスだけど職業サンタクロースとか、聞いたことねえよ。


「いやいやいやそんな見え透いた嘘つかれてもねぇ、ギノさん?」

「正直に話してくれないか」

「やっぱり信じてくれないじゃないですか。だから言いたくなかったんですよ」


 目の前の彼女は完全に不機嫌。でもなんでそんな嘘信じられる?今この国で職業判定は全部シビュラがやってる。けど、サンタクロースなんてのは見たことも聞いたこともねぇ。しかも俺たち公安に向かって言うなんて。


「シビュラシステムがあり職業適性は全てシビュラが行っているこの社会で君の発言を信じろということの方がおかしい。そんなことは有り得ない」

「わたしが日本人だといつ誰が言いました?」

「どう考えても日本人顔だろ。日本語も流暢だし」

「全く頭の堅い人達ですね。私は日系フィンランド人です。母も父も日本人ですがフィンランドに越してきたので国籍はフィンランド。それに今時勉強すればこのくらい誰だって喋れます。一から十まで説明しなければわかりませんか」

「俺達はそれを聞く義務がある」

「じゃあフィンランド人サンタさんだとして、何で普通のスーツなの?」

「バレるしコスプレだと思われるからですよ。あなた達が知らない様に、わたし達の活動は秘密裏に成されています」

「じゃあ鹿とソリに乗って日本にきたの?」

「はい」

「不法入国だね」


 俺が笑うと彼女は顔を青くした。まさかわかってなくて答えたの?お馬鹿ちゃんだなー。けど、サンタクロース、おもしれーじゃん。


「ギノさん、どうすんのこの子」

「上に指示を仰ぐから待っていろ」


 ギノさんが連絡を取っている間、俺は彼女を観察した。黒い真っ直ぐな髪に大きくはない身長。肌は少し白めか。やっぱり日本人にしか見えない。ま、血は日本って言ってたしな。


「ね、名前聞いていい?」

「……苗字名前です」

「俺、縢秀星。これで名前サンは列記とした犯罪者ってことで。残念、サンタクロースには戻れないね」

「そんな…!それじゃあ日本の子供達にプレゼントが届けられないじゃない…!」

「法を犯したのはアンタでしょ?サンタさん」


 歯を食いしばる名前さん。墓穴掘っちゃったね。俺は他人事だけど、本当に名前さんとは会ったばっかの他人だし、しったこっちゃない。それにサンタとか、今時誰が信じるんだよ。てか大の大人が夢見過ぎ。


「暫くうちで監視することになるらしい。よし、連れてくぞ」

「そんなら俺、この人育てたいよギノさん」

「はっ!?」

「何を言っているんだ?監視官ならまだしもお前は執行官なんだそんなことが許される訳ないだろう」

「そこをなんとか」

「駄目だ」

「じゃあ朱ちゃんにお願いしよーっと」

「常守朱監視官は関係ないだろう」

「ちょっとちょっと、何勝手に進めてるんですか!私の同意なしに!」

「黙っていろ。お前は異国人で且つ罪人だ」

「……」

「ギノさん言い過ぎなんじゃねーの」

「事実だ」


 ま、確かにそうなんだけどさ。異国で不安だったりするんじゃねーの、こういうのって。もっと言葉選ぼうよ。てかそもそもフィンランド人だなんて、俺は思ってねーけど。だからこそ、この電波すぎる大人を俺は観察してみたいんだよ。


*****


「いいですよ。上の許可が下りてるならそれで」

「常守朱監視官!」

「だって私達が監視すればいいんですよね?何処で誰がなんて指定されてない。ならいいじゃないですか」

「でもこいつは執行官なんだぞ!」

「じゃあ宜野座さんがやりますか」

「っ……」

「そういうことです。じゃあ縢君よろしくね」

「まっかせてくださーい!流石朱ちゃんわかってるー!じゃあ俺今日これまでなんでお先ー!」


 後ろをついて来る名前さんはなんだかしょんぼりした様子でとぼとぼ下を向いて歩いてる。色相クリアカラーの犯罪者。日本じゃ珍しい。てか、俺と一緒にいて濁るかもな。はは、面白。


「っ、そんなことしなくても、逃げませんよ」

「いやーどうするかわかんねーからな、嘘つきは」

「信じてくれてなかったんですか!?」

「おう」

「酷い。縢さんは信じてくれてると思ってたのに」

「それは名前さんの勝手な思い違いでしょ?俺の所為にするなよ」


 名前さんの腕を掴んだまま、歩く、歩く歩く歩く。俺の部屋まで。
 犯罪者で嘘をつく人間なんかいっぱいいる。俺はそういうのを何回も見てきた。こうやって「信じてたのに!」って被害者ぶる女も、たくさん。そんな中で誰が手を離すかよ。そんなへましたら、ギノさんに怒られる。


「ここ、俺の部屋ね」


 ドアを開けるといつものようにホログラムが迎えてくれる。『お帰りなさいませ、縢さん』朝設定した通りの部屋になっている。当たり前だけど。


「な、んですかこれ」

「何って……もしかして本当に知らないの?」

「当たり前です」


 もし日本人だったらこのシステムは日常で今更何の疑問も生まれない。当たり前だからだ。当たり前すぎて何も思わない、何も感じない。でもこの人は驚き尋ねてきた。本当に知らないのかもしれない、日本を。


「あーじゃあとりあえず、今日から名前さんこの家で暮らすからそのつもりで。とりあえずその椅子座って」

「はい」

「敬語も外していいよ」

「え?でもわたし罪人じゃあ」

「俺口答えする人キライ」


 そう言うと、ぐっと押し黙った。まあ嘘だけど。口答えしようがしまいがそれくらいで嫌いになるほど幼い訳じゃない、俺だって。


「で、何で日本に来たの?」

「日本の子供達にプレゼントを届ける為。今年初めて配達員としての役目をもらったからクリスマス前に調査に来たの。そしたらあんなところで捕まってる子もザラじゃない、どうしようかって考えてたところに、あなたたちが…」

「俺らはそーいう仕事なの!」

「わたしだってそうだよ。日本はどうなってるの?どうしてこんなに訳のわからないことに捕らわれて生活してるってのに何も言わないの?」

「俺だって知るかよ。シビュラなんか大嫌いなんだ。そもそも俺だって、あそこの出だから」

「えっ、縢さんも!?」

「さんはいらねぇ」


 そう、俺だって昔あそこにいたんだ。子供のときから。サンタからプレゼントなんてもらったこともない。でも名前さんが嘘をついているようにも思えない。何もしてねえってのに、潜在犯として、あそこにいた。……なんだよ、潜在犯って。何なんだよシビュラって。俺だって知りてーよ、この世界が終わる方法。


「あーもうやめ!辛気臭いのやめよーぜ。とりあえずこの部屋ん中なら好き勝手してくれていいから」

「ありがとう」


 飯、作ってやりてーな。けど今からはちょっと。まだ名前さん此処に慣れてねーし、また今度にするか。これから名前さんは此処にいるし、いくらだって時間はあるし、そう焦ることでもない。朱ちゃんとか呼んで、みんなで酒飲むのもいーな。


「飯何食う?」

「何って?」

「中華料理とか」

「日本料理で」

「じゃ、夕飯ジャパニーズで」

『カロリーはどういたしますか?』

「任せる。二人分用意して」

『畏まりました』


 名前さんは怪訝そうな顔でホログラムを見つめている。そんな珍しい物なのか?これって。ホログラムがないってことは、日本の外はかなりアナログな世界なんじゃねーの?それこそ何十年前の日本みてーに。


「コレ何?」

「いい加減慣れてよ」

「来たばっかりだもん無理」


 ふよふよと浮いているホログラムを見ながら「後で師匠に連絡しなきゃなあ」とぼそっと呟いた。師匠なるものがいるらしい。サンタにも師弟関係とかあるんだ。日本でのミッションは失敗に終わって捕まってしまいました、とか言うのかな。それとも言い訳がましく俺らのことを説明するかな。


「スーツ疲れちゃったから、着替えてもいい?」

「別にいいけど。洗面所あっちね」


 俺が指差した方向へ荷物を持って消えてった。流石に部屋の中でずっとスーツは堪えたみたいだ。軽々しく男の部屋で着替えなんかするもんじゃねーと思うけど、フィンランドじゃ違うのか?ほんと、外国って訳わかんね。


「……それこそコスプレみたいだけど」

「普段はこの格好なんだもの、これじゃないと落ち着かないの。いいでしょ別に」

「いいけどよ」


 真っ赤なサンタ姿になって現れた。正直驚いた。サンタは普段からサンタ服着てんのか。てことは一年中。季節感のへったくれもねえ。


「ところでさ、俺、実はあと二日後誕生日なんだ」

「それは、おめでとう」

「ちょっと早めのプレゼントもらった気分で、少し嬉しい」

「は、え?」

「名前さんが来たの」

「そんなこと、言われても……」

「だから当日バースデーソング歌えよ!」

「無理よ!わたし歌下手なんだから!」

「何でサンタさんが歌歌えねーんだよ」

「音痴なの!」

「えーいいじゃんー」

「よくない!」

「期待してるから」


 ほんと、やめて。そう言って彼女はがっくり肩を落とした。名前さんとの生活は、結構面白そうだ。




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