※二人とも大学生
「……こんなとこで何やってんだよ」
「ん……あれ、飛雄が見える。ホンモノ?」
「本物じゃない訳あるか」
「あ、ほんとだ、ホンモノだー」
俺の頬を触る名前からは酒の匂いがして、そういえば今日は飲み会に行くとか言っていたなと思い出す。それにしたって、何で此処にいるんだ。聞いてねえよ。
「こんな時間にこんなとこで寝て、危ねえだろうが」
「やだ、お説教?危なくないよー」
「もしお前を襲う物好きがいたらどうすんだよ」
「えへ、飛雄の物好き」
「酔っぱらいは部屋に入れねえぞ」
「酔っぱらってなんかないもん」
なんだ、「もん」って。さては相当飲んだな。
もう日付越えそうで急いで帰ってきたら彼女が酔い潰れて俺の部屋の前で寝ていた。いくら俺の部屋の前だからって寝るのは無用心すぎる。本当に何かあったら、どうするんだよ。
「ちゃんと掴まってろよ」
「ん」
荷物をドアの横に置き、彼女の腕を首を回して横抱きで部屋に入れた。とりあえず玄関に降ろし、外に置きっぱなしの荷物を取りに立ち上がった。が、彼女の腕が俺の服を捉えて阻止してくる。
「なんだよ」
「行っちゃやだ」
「外に置いてきた荷物取りに行くだけだ」
「置いてかないで、一人にしないで」
「すぐだから待ってろって」
あやすように目のとろけた名前にキスをしてやると、すぐに舌を出してきて絡ませてくる。満足の行くまでキスしてやり、やっと解放された俺は荷物を取りに行き、戻ってくるとすぐに名前は俺の手を掴んできた。
酒の所為で積極的なのはわかってる。けど、こんなに甘えてくるだなんて思ってなかったから流石にちょっとこれは、ヤバい。
「歩けるか?」
「むり」
「ほんとに?」
「だっこー」
今は全然俺の言うことなんか聞きそうにないから思う存分甘えさせてやることにした。普段はでは絶対見ない名前に新鮮な気持ちを覚えているのも確かだし。
「とりあえず水飲め」
「えー」
「明日辛くなるだろ」
「んー、わかった」
コップ一杯の水を飲ませた。家飲みでもここまでなったことないから、全くもって不思議だ。今日の飲み会は誰と一緒だったんだ?何があったんだ。
「とーびお」
「なに?」
「となりーおいで!」
ぽんぽんと自分の隣のソファの空きスペースを叩いている。特に拒む理由もないから座ると擦り寄ってきた。あー、かわいい。こう思う俺は本当にこいつに目がねえと思う。
「とびお、おやすみ」
「寝るのか」
「うん」
明日はバイトとかあるんだろうかとか考えて、今の名前には答えられなそうだから野暮なことを聞くのはやめた。今はそっと寝かせてやろう。
*****
「っ!?何でいるの!?」
「それはお前のセリフじゃねえよ。ついでに言うと俺のセリフでもねえ」
「えっと、?」
「覚えてないのか?」
「何にも」
「昨日飲み会だったのは?」
「覚えてる。みんなと別れたとこまでは」
「うちに来たのは?」
「……覚えてません」
「無用心すぎんだろォ!」
「で、でもでもでも!酔ってたんだし!」
「いくら酔ってても、だ!」
夜のうちに運んでおいたベッドの上で説教。俺は怒りたくて怒ってる訳じゃねえ、名前が心配だから怒ってるんだ。でも、口をつぐんだ名前を前にしてちょっと言い過ぎたかと反省。いや、でも俺の家の前だからって安心して寝られちゃ困る。
「……怒らないで聞いて。言い訳だけど」
「おう」
そこまで萎れられちゃ、怒るに怒れないし、話を聞かない訳にいかねえじゃねえか。
ベッドの上で正座をする名前に横になりながら話を聞く俺。すげー偉そう。
「わたし外で飲むと羽目外れないのよ、いつもみんなの介護してるから。で、昨日も例に漏れず体調悪くした人のこと見てたわけ。お開きになって家に帰ろうと、そこまでは覚えてるの」
「でも気付いたら俺の家に来てたと」
「そうみたい。結構飲んでたし、多分、無意識のうちに」
「ふーん」
「……怒った?」
「別に」
今のを聞いて怒る理由など何もない。強いて言うなら外で飲みすぎるなっつーことぐらいだ。
「そこの棚の一番上、開けてみろ」
「……鍵?」
「合鍵持っとけ」
「いいの?」
「こんなこと二度と御免だからな」
それに、合鍵を渡すことは前から考えていた。渡す良いきっかけにはなったが、また酔い潰れて扉の前にいるなんてのは御免被る。家の中にいてくれた方がよっぽど良い。
「飛雄」
「あ?」
「好きだよ」
「俺は100倍好きだけどな」
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