※狂ってる上に暗い













 拝啓影山飛雄様

 夏を思わせる天気が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。日射しが強くなり、仕事へ行く時以外は家に籠もっています。まあ、昔も今もそう変わりませんが。
 貴方が別れを告げてから既に数年が経ち、私は三十路になりました。未だ結婚もできず、人生をふらふらとしています。
 この手紙を受け取った貴方は、きっと心底嫌そうな顔をして読むか否か悩み、そして結局封を切っているのだと思います。今の貴方には彼女の一人や二人くらいいるでしょうし、今更私は貴方とどうこうなろうなどとは考えていないのでご安心ください。それに、一度貴方に振られてしまった以上、昔のような日々に戻れるとも思っていませんので。
 この間大掃除をして、久しぶりに部屋の模様替えをしました。すると箪笥の裏から貴方からもらった指輪が出てきたのです。無くしていたと思っていたのですが、きっと振られた時に癇癪を起こして投げたのが後ろに入ってしまったのでしょう。そんなこともあり、筆を取った次第です。
 そういえば、部屋に一人で住むようになって一ヶ月経った頃、生理が止まりました。いや、まさかと思いながら調べてみると陽性だったのです。貴方が私を振る前に私は、貴方の子を孕んでいたらしかったのです。初めは、遠く私から離れてしまった貴方と繋がっていられると、そう思って育てようとしたのです。しかし、よく考えてみると仕事も安定せず、貴方のことばかり考え生活を怠るような私が、生まれてくる子を育てられる訳ないと思ったのです。父もいないし、こんな浮ついたような母では子も幸せになどなれないと、そう思ったのです。そうして私はお腹の子をおろしました。
 このことを今までずっと貴方に報告しなかったのは、きっと、自分の中ではまだ覚悟できていなかったのです。貴方に蔑まれるということを。だから何年も経った今、貴方に伝えています。私が言いたいのは貴方と復縁したいだとかそんなことではなくて、貴方と私の間にも新しい魂が芽生え始めていたこともあったのだと、それだけを伝えたいのです。
 もし今も、貴方が私を捕まえていてくれたなら、私が人を殺めることもなかったのかもしれませんね。
 きっと、貴方に手紙を出すのはこれが最初で最後になるでしょう。どうか、ずっと、お元気で。テレビに貴方が映るのを楽しみにしています。

 (五月十日消印の手紙より抜粋)




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補足。大学生飛雄と社会人ヒロインが付き合っていて、飛雄はオリンピックに出るような選手に成長(勿論変人コンビで)。不定期且つ平日休みの飛雄に対し週末休みのヒロインとだんだんすれ違いが多くなり、破局。テレビというのは試合が放送されるのを見て彼を懐かしく思うという意。

130504

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