がチャリ、鍵を開ける音がする。ああ、どうしよう。寝ちゃってた。時計をみると、さっきから5分しか進んでいない。ギリギリだったんだな、わたし。


「ただいま」

「……おかえり」

「寝てた?」

「うん」

「飯は?」

「まだ」


 まだ、作ってない。今日は散々な日だったのだ。上司のミスを押しつけられ、その修正と同じ上司から回される仕事をこなすのとで1日が終わってしまった。でも飛雄が帰ってくる前に家に着いておきたかったから急いで仕事を終わらせたのだ。その所為で、いつにもないくらいの疲労感がわたしを支配している。その疲労感が睡魔を連れてきて、わたしはいつの間にかソファで寝てしまっていた。


「今日ご飯、無しじゃだめ?」

「ダメだろ。腹減ってるし、俺」

「飛雄作ってー」

「カップラーメンしか作れない俺にできると思うのか」

「…ごめん、今作るね」


 重い身体をずるりとソファから起こし、キッチンへ向かう。流石にカップラーメンは可哀想だし、飛雄に包丁持たせたらどうなるか分からない。大事な指を切ってしまったらそれこそ大変だ。ぼうっとする頭で冷蔵庫を覗き、あり合わせの野菜で名前の無い料理を作る。飛雄は学生だ。高校の頃に比べたら食べる量は減ったけれど、それでもやはり沢山食べる。ご飯を食べている飛雄を見るのは好きだから、沢山作るのは苦じゃない。


 いただきます、手を合わせてガツガツと勢いよく食べ始めた。余程お腹が空いてたんだろう。ご飯、いつもより遅くなっちゃってごめんね。そう思いながらわたしも手を合わせる。凄い勢いで減っていくおかずを見ながら、明日は22日だったと考える。後でスーパー行かなくちゃ。勿論、飛雄もつれて。


「ごちそうさま」

「お粗末様でした」

「座ってて。今日は俺洗うから」


 立ち上がろうとした矢先にこう言われて、今までにこんなこと、一度もなかったからポカンとしてしまった。気付けばわたしは頭を撫でられて、彼はキッチンに立っていた。


「大丈夫?」

「これくらいできる」

「お皿割ったりしない?」

「馬鹿にしてんのか」

「ふふ、じゃあ任せます」


 馬鹿になんか全然してなくて、本気で心配してるんだけど、自分から言ってくれることなんて普段ないから近くで見守りつつ任せてみることにした。意外と慣れてる手付きをしてて、すぐに終わらせてくれた。


「ありがとう、飛雄」

「礼言われるほどじゃねーよ」


 照れたのかこっちを見てくれないけど真っ赤な耳がこちらから見える。


「飯ありがとう、旨かった」


 不意打ちでそんなこと言うからこっちまで赤くなってきちゃって。嬉しいことに、今日の飛雄はやけに素直だ。照れたことを隠すようにわたしは話題を振った。


「カレーの材料買いに行くけど、行く?」

「行く」


 卵買わねーと。ぽつりと漏らす彼。毎月22日はカレーの日。これは私と飛雄の間のルールだ。飛雄の好きな物を月に一回は作ってあげたい。そう言ってわたしが始めた。誕生日に一番好きな物が食べられるように、22日に決めたの。最近は飛雄も出来るだけ早く帰ってきて、一緒に作るようになった。卵忘れる訳なんてないのにね。




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社会人と付き合う大学生王様飛雄でした。このネタは大好きだ。最近は家事をするとき全部飛雄の為だと思いながらやってる。頑張れる。

120413

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