深い水槽での続き
















 これ以上に焦れったいことなどあっただろうか。目の前で泣いている彼女の涙を拭ってやれない、その震える肩を抱いてやれない、こんなにやりきれない思いをしたのは、久しぶりだ。


*****


「おはよう、秀星」

「……おはよう」


 まだ眠い瞼を擦りながら、いい匂いに釣られキッチンに顔を出した。そこにはエプロンをした名前の姿が。


「何で急に料理?」

「秀星見て久しぶりに作りたくなっちゃった」


 秀星の分、作る? 何かを気にしたのかそう聞いてくる名前に、いらないと言葉を返した。俺は食べれないんだから作る必要はねえ。手を付けてもいない飯を残飯として出すのは勿体ないだろ?ましてや手作りだし。


「でも、幽霊も寝るんだね」

「ああ。寝なくても全然大丈夫だけど、寝ようと思えば寝れる」

「そうなんだ。久しぶりの秀星の寝顔、可愛かったよ」

「名前もな。相変わらずヨダレたらしてたけど」

「嘘!? 言ってよ!」

「嘘だよ」


 シシッと笑う俺に、膨れる名前。なんか、やっと戻ってきた感じだ。やっと、死ぬ前に戻れた。昨日は名前が始終泣いていたし、とにかく俺はそれをあやすので大変だった。俺は此処にいるっつーのに。


「はい出来た。いただきまーす」

「召し上がれ」


 朝からペペロンチーノとかやっぱすげーな名前は。流石の俺でもそれはやったことなかったぜ、勿論生前だけど。それにしても美味しそうに食べるよな。身体を持たない今となっても、また飯を作ってやりたいとか思っちまう。


「そういえば一係に新しい子来たけど、来る?」

「え、女子!?」

「うん」

「スペックは!?」

「えーっと、未成年で」

「未成年!? そんなの巻き込んでいいのかよシビュラシステム……」

「さあね。まあ私達執行官は上の奴等の言葉を聞くしか能がないんだからいいのよ」


 そういえば。名前はまだシビュラシステムの正体を知らないんだった。きっとまだスパコンか何かだと思ってる。俺はシビュラの正体を知ったから殺されたんだから、殺されてない名前はシビュラを知らないってことになる。
 どうかした? 急に黙った俺に問う。いや、何も。いつものように答える。別に名前を危険に晒すことはない。今まで通り、名前は執行官として働くんだ、俺が口を挟む筋じゃない。


「俺も行こうかなー一係」

「未成年に手出したら犯罪だからね」

「元々潜在犯だし、出す手がねーよ」

「それもそうね」




130407

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