カンカン。渇いた木の音が響き、場内は静まり返った。沈黙が心臓に突き刺さる。心臓が悲鳴をあげている。
「これにて判決を言い渡す。被告人、苗字名前は有罪、死刑に処する!」
「わたし、何もしてない!」
「以上!」
背中の向こうから見物人達がぞろぞろと出て行く音がする。こんなのってない。わたし、本当に何もしてないのに。
「名前ちゃん」
「コムイさん…」
「おいで」
あんなにお世話になったコムイさんに馴れ馴れしく話しかけることも叶わず、繋がれた両の手をじっと見てコムイさんについていった。張り詰めた空気を背負っているコムイさんは話しかけることを許してくれない。シスコンと呼ばれる男には到底見えなくて、わたしはただ目の前に宙ぶらりんになっている嘘の現実を見ているしかない。
「じゃあ暫く、此処で大人しくしてて。死刑囚は早く殺すのが此処の習慣でね」
わたしが何かを言う前に、目の前の黒々とした鉄扉が閉められた。閉まる直前に見えた、コムイさんの今まで見たことのないような視線がわたしに突き刺さって離れない。それはまるで氷のようにわたしを冷たく侵していく。
窓が1つと、ベッドに薄い毛布くらいしか無いこの部屋には月明かりが差していて、あといくらか時間が経てばわたしはこの世からいなくなってしまうのだと思うと、やり残したことばかりが頭に浮かんでくるようで。
「アレン…」
愛しい人の名を呼んだ。ずっと彼を愛していた。アレン・ウォーカー。教団の中でわたし達は危うい存在であり、そのわたし達が共にいることがお互いの立場を悪くしたのだとしても、わたし達はそんなこと、どうでもよかった。
超極秘任務として与えられたほぼ全てのエクソシストが参加したその任務。誰の所為か知らないが、その情報が千年伯爵へと漏れていたのだ。エクソシストがそこへ到着すると沢山のノアに待ち伏せされていた。わたしはそこへ向かう途中アクマに襲われていた女の子を見つけ、そのアクマを片付けてから向かったため遅れてしまったのだ。ノアの襲撃を予め知っていて回避したと思われたわたしはこの通り、牢屋行き。そして明日には絞首刑になることが決まっている。多くのエクソシストの命を危険に晒した罪は重い、それくらいわかってる。でもわたしは本当に何もしてないし、何も知ってはいなかったのだ。勿論、どうやったら千年伯爵と繋がれるのかさえわからない。しかしわたしの言葉はアレンを除く誰1人の耳にも入らず、此処でその時を待つしかない。まだ、死にたくない。まだ人生の半分も生きてない。死ぬのは、怖い。───ならわたしは、あの少女を助けなければよかったのか。そうすればわたしは、自分を助けることができたのか。わたしはエクソシストだ。アクマに襲われている人々を、どうして見捨てることができる。
その時、ドアが開いた。外から何かが転がり込んできて、またすぐに大きな音を立てて閉められる。
「──なに?」
「僕です、名前さん」
「アレンっ!?」
久しぶりの愛しい人に、思わず抱き締めた。ああ、ずっとこうしたかった。ずっと貴方に触れたかった。話せないことですら辛かったのに。でも、どうしてアレンが…?
「死ぬのが怖いですか」
「…そりゃあ、ね」
「僕も死にます」
「そんなの駄目だよ!」
「大丈夫」
そう言って、わたしの手をとった。きゅっと温かく包まれる感覚は、いつもと変わらないものだった。
「もともと、この死刑のやり方には証明人が必要なんです」
「証明人?」
「はい。死刑囚の証明人です。僕はそれに立候補しました」
「……」
「証明人は、望めば死刑囚と共に殺してもらえます。まあ、執行方法は異なりますが」
「何で、そんなこと言うの…!」
「貴方がいない世界にどうやって生きる意味を見いだすんですか」
僕を1人になんかしないでください。彼はぽつりと呟いた。
わたしだって、わたしだってそんなこと言われたら、甘えてしまうのに。アレンは生きなきゃいけない存在で、それは教団側にもノア側にも言える。それなのに、わたしが死ぬから死ぬだなんて、許されるのだろうか。
「僕が此処にいるのは証明人として死ぬことを許されたからですよ」
「駄目だよアレン、今すぐ戻って!まだ間に合うかもしれない。とにかくアレンはこんなところで死んじゃいけない!」
「貴方はバカですか!」
薄暗い空間に渇いた音が響いた。アレンがわたしの頬をはたいたのだ。アレンがわたしに手をあげたことなんて今までに一度だってなくて、突然のことに言葉を失ってしまう。
「貴方がいないこの世界で、僕はどうやって生きるんですか。貴方がいなきゃ僕はただの役立たずの少年になります。そうなったら教団も僕を見放すでしょう。だったら今、死んだ方がましです」
「……分かった」
仕舞いには目に涙を溜めて話すものだから、こちらも折れてしまった。彼の薄い背中に手を回し、その細い身体を抱きしめる。
「でも、本当にいいの?」
「はい」
「……そう」
アレンもわたしの背中に手を回し、ぎゅっと服を掴んで抱きしめた。こうしてアレンと触れあっていられるのも、残り数時間なのだ。その抱擁が、逆にわたしにこの事実を突きつける。どうにも平然としていられる筈がない。お互い声には出さないけれど、心で泣いているのが手にとるように分かった。
(好きです、アレン)
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この話、元ネタはいつだかに私がみた夢の話です。勿論お相手は別の人ですが、世界観的にdgがいいんじゃないかと思い、使いました。実はこれ、死んで終わりではなく、死後の世界まで話は続いているんですが、夢なので如何せん辻褄を合わせることができず、又私の語彙力や表現力不足でここまでにしました。本当は服を変えてヒロインの代わりにアレンが死刑囚として死に、ヒロインが証明人として死ぬんですが、まあ夢なので主観的にしかみれず、お相手がどうやって刑執行されたのか知らないんですよねー(おい)証明人は死ぬという感じではなく、監視官に質問をされ、それに答えたらいつの間にか死後の世界に!という感じです。かなり町並みが整っていて、住む場所もランダムに支給されるので、生活するには支障なさそうな感じでした。
130319