※現パロ














「ただいまー」


 家の中へ投げかけるように言ってヒールを脱ぎ捨てる。しかし返ってくる言葉はない。玄関先に靴は無いしリビングも電気が付いてなくて、部屋に籠もっているという訳でもなさそうだった。
───出掛けてるのか。
 思えば今朝、今日はちょっと遅くなるとか言っていたような気がする。夕飯外で食べてくるのかな、聞いておけば良かった。かと言って電話するのも憚られる。何か大事なことしているかもしれないし。そうやって言い訳ばかりして、本当は度胸がないだけなのだ。返ってくるか半ば期待せずにメールをいれた。「今日は夕飯いりますか」絵文字ゼロ。女子力の低下が伺える。追加して顔文字もナシ。もうちょっと可愛げある感じにしたらどうなの、と当の本人でさえ思う始末。直しはしないけれど。

 冷蔵庫の中身を確認してソファに沈む。彼はどこに行ったのやら。詮索したって無駄に終わるだけなのに。ご飯の時とか言葉を交わすけれど肝心なことは何一つ喋ってくれない。名前くらいしか知らないんだもの、わたし。年齢も、血液型も誕生日も知らない。好きな食べ物は意外にも和食で、特に煮付けってことしか知らない。ああもう止めだ、彼のことを考えるのは。そういえばこの前録画した番組でも観ようか。好きな人に想いを告げた主人公、どうなったんだろう。
 その時、携帯が震えた。あまりにも速い応答に内心驚く。


 夕飯は食べて帰るからいらない、とのこと。彼は今、一体何をしているのだろう。Gに聞いてみたいけれど、彼に聞いてしまえばジョットについて嗅ぎ回っていることが分かってしまう。Gに限って、ジョットに伝えるなんてことはないとは思うがどうにかして自分の身を守りたいのだ。


「よしっ」


 どうせ彼は帰りが遅くなるのだろうからわたしは1人でカップ麺でも食べようか。かれこれ半年は食べていない。彼と一緒に暮らしてから、口にする回数が減ったからだ。日本食はわたしが作り、たまに彼もイタリアンを作ってくれたりした。そんな訳で家にストックなどある筈もなく、近くのコンビニへと足を向ける。便利な時代になったもんだ。


「どっちにしよう…」


 トマトベースのカップラーメンと、豚骨ラーメン。いや、焼きそばもいいよなあ。ラーメンと言えば豚骨派なのだが、トマトのパッケージに惹かれどっちにしようか悩んでいる。結局、冒険してみるという意味で、トマトにした。パッケージのデザイン担当の思惑にまんまとはまってしまったという訳だ。
 ついでにデザートも買おう。コンビニデザートの魅力ははかりしれない、と思う。だってこんなにきらきらしてて買わざるをえないし。


「あっ、すみません」

「こちらこそ」


 ひとつのプリンに手を伸ばした時、隣にいた人の手にぶつかってしまった。デザートに夢中で隣の人の存在に気付かなかったとか…駄目だなあ。


「名前、まさか今日の夕飯それじゃないよな?」

「…!?ジョット!?」


 ぶつかった人というのはジョットだったらしく、目ざとく手に持っているカップラーメンを見つけられてしまった。


「遅く帰ってくるんじゃなかったの」

「俺はそんなこと一言も書いていない筈だが」

「うっ…と、ところでジョット何でこんなところに?」


 「こんなところ」を聞いていた近くで作業している店員さんの視線が刺さる。いやー、ごめん。でもジョットにとってはこんなところなのよ。だってこんな素敵なイタリア人男性、コンビニなんか似合わないでしょう。


「名前にデザートでも買っていってやろうかと思ったんだが、そんなものを食べるんじゃあな」

「えっ、ええ!?此処まで来てデザート買ってくれないの!?」

「大声を出すな。迷惑になるだろう」


 わたしのトマトを引ったくるとカップ麺コーナーに返しに行き、わたしの腕を取って歩き出した。少し、心臓が駆け足になる。


「ちょっと、どこ行くの?」

「家に決まっているだろう」

「でもわたし、ご飯…」

「あんなものを口にするくらいなら俺が作ってやる」

「でもジョット疲れてるし、」

「致し方ないだろう。まあ昔の友人と飲んできただけだから雑作もない」


 そういえばお酒の匂いがする、と今になってようやく気付いた。わたしも家にあるワイン開けてジョットと飲み直そうかな。きっとパスタでも作ってくれるんでしょうし。
 捕まれた右腕が熱い。それと同時に頬にも熱が上がってくるのを感じた。どうやら、これも致し方ないらしい。




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