「あら、珍しいわね」

「まあちょっとね」


 彼女が珍しいと言っているのは、わたしが外へ出てすぐに此処に来たことだ。いつもだったら部屋へ直行してシャワーを軽く浴びて戻ってくるのだが、今日はそうはしなかった。何故なのかは自分でもわからない。
 今日当たったのは犯罪係数300越えの凄い奴で、ドミネーターもすぐにパラライザーとなった。

 そんなにもがかなくたっていいのに。死んだ方が楽になることだってあるのに。そう思いながら、いつも通り冷めた心でそいつを見ていた。所持していたのはフルーツナイフで、銃を持ってるこっちの方が数段有利だ、そう思っていたのが仇となった。


『危ないっ!』


 コウの声が聞こえて直後、そいつの持っていたナイフがわたしの身体へ入っていく。音を立てずに肉を裂いていく。最低。
 そう思ったが後か先か、わたしは名の通り犬に成り下がった。獲物をこの時代には珍しい本物の銃で撃ち殺した。息の根が止まってもなお、わたしはそいつを撃ち続けた。知らない、知らない知らない知らない、こんな感情。本能のままに動くなんて、まるでいつぶり。潜在犯になって以来、ずっとそんなことは無かったのに。それでもその銃の弾が全てなくなってカチン、カチンと空振りする音を聞くまで、わたしは指先を動かすことをやめなかった。
 結局わたしはコウや征陸に取り押さえられ、此処へ帰ってきたものの、いつまで此処にいれるかわからない。だからすぐに此処へ来たのかもしれない。


「もう、此処にもいれないわ」

「そう」


 志恩は画面から視線を外そうとしない。


「とりあえずその腹部の傷をどうにかしなさいよ」

「どうだっていいよ」

「よくないわよ、貴女達の体調管理をするのはわたしなんだから」


 痛みなんてどうでもいい。これからどうなってしまうのかが、一番怖い。シビュラにはもう、潜在犯だなんて判定されないだろう。

 いつの間にか志恩は仕事にキリを付け、わたしの上に乗った。志恩が上なのは久しぶりかもしれない、頭の隅でそんなことを思った。


「これで最後だって思ってる?」

「……」

「馬鹿ね」


 その唇を噛み切ろうにも、今のわたしにそんな資格がないことは明らかだった。



Euthanasia




130113

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