※ちょっと危険かも。
「やっぱり夜の街は好きになれへんなぁ。こう、なんか怪しいゆうか、不気味ゆうか…」
「そうですか?てっきり志摩さんは慣れてるのかと。坊はどう思います?」
「俺も好きでこうしてる訳やないんや。黙って歩き」
真っ黒な、星が一つも見えない夜に、朱い提灯が何個も店先に下がっとる。その灯りに照らされた道にいるのは俺等三人しかおらん。俺等の足音だけが、その通りに響いとる。俺が苦手なんは虫がぶっちぎりで一位やけど、こういう夜の街も昔から苦手やった。どうも慣れへん。任務やなかったらこんな時にこんな所へ来いへんもん。だから、仕方無く、なんや。
「あっ」
「どないした?」
前から可愛らしい女の子が来て、こんな時間にうろうろするのはあかんなぁ、危険すぎる。んなこと思うてたら急に転げよって。俺が駆け寄ったんや。
「いった…」
「足赤くなってはる。あ、下駄の鼻緒も切れてはる」
「志摩、どないしたん?」
「大丈夫ですか?」
「俺、この子送ってくさかい、坊と子猫はんは先帰ってて下さい」
「せやけどお前、さっきこの街嫌いやゆうてはったやないかい」
「女の子のピンチにんなこと言ってられまへんわ!」
んじゃ、後宜しく頼みますわ。そう言って、坊たちを送り出した。さて、どうすっかなぁ。俺と反対方向に行こうとしてはったしなぁ。
「お前さん、何処へ行くんや」
「……」
「どっか具合でも悪いんか?さっき足痛めたとか…」
「この先の、花屋ゆう店です」
「店?こんな時間に?」
「……」
「まぁ、行こか」
最初おぶろうかと思ったけどこの子は着物着てはったから抱えることにした。所謂お姫様抱っこゆう奴や。この子がプリンセス、俺がプリンス。どう?俺いかしとるやろ?
「名前はなんて言うん?」
「…名前」
「俺は廉造。よろしゅうな」
あかん、会話が続かへん。なんで名前さんは何も喋ろうとせんのやろ?何かあるんは、わかるのやけど。
「廉造はん」
「ん?」
「…行きとうないです」
「は?」
「花屋に、行きとうないです」
「…一回其処のベンチ座ろか」
なかなか口を開かなかった名前さんやけど、話を聞いているうちに、段々話が見えてきた。現代に似合わず、名前さんはとある人に飼われてはるんだとか。それで、言われた通り店へ行く途中で俺と会ったゆうことらしい。ご飯も満足に食えるし、そこまで不自由してる訳でもないらしい。けど、連れ回されたり、店に呼んだり。当たり前やけど、逆らっちゃあかん。そんなんじゃ、まるで人形みたいやないか。そんなんじゃ、…。
「なんて、我が儘ですよね、すみません。わたしに拒否権なんてありゃしないもの」
「行くで」
「廉造さん!?何処へ…」
「俺んち」
「そんな、廉造さんに迷惑なんてかけれまへん!」
「迷惑やない、俺が勝手にしてることや。俺が守ったる」
「廉造さん…」
俺には名前さんにこれくらいしかしてやれないけど、これで救われるのなら俺はいつだって守ってやる。
ぷつりと切れた鼻緒
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帰って柔兄や八百造さんに「お前何拾うてきてん!」とか叱られればいい。そんで家族ぐるみで守ってやればいい。オブラートに包んでるけど、つまりそういうことっす。飼ってる人は個人的に女性がいいなー
120403