ふんふんふーん。語尾に音符マークを付けながら鼻歌を歌って上機嫌。だって今日は燐と若先生の生まれた日なのだから。
冬休みで学校はお休みだけど目覚ましセットして早起きした。至って普通の日の筈なのに、太陽がキラキラしているように思える。
突然だけど、わたしは若先生が好き。だから今日は手作りケーキを作って会いに行くって決めたの。別に、告白する気なんてさらさら無い。だって、多分、若先生はしえみちゃんが好きだから。ずっと若先生のこと見てたんだもの、それくらいわかる。だけどケーキ渡すくらいなら良いよね!きっと神さまも許してくれるよね!いつもありがとうございますっていう感謝の気持ちもあるんだから。
ケーキを作ってラッピングをしたら、とびきりのオシャレをして外へ出る。凍えるような寒さの風が頬を叩くけれど気にしない。これも愛の試練だ!とか言ってみる。道にはクリスマスでくっ付いたのか、もっと前からだったのかは知らないがカップルがちらほら見える。クリスマスより人が減ったのはきっとみんな帰省とかしてるからだと思う。
ぶっちゃけた話、クリスマスなんていうふざけた行事に興味は無い。どうせ企業が狙って盛り上げているに決まってる!最も、クリスマスっていうのはキリストが生まれた日なんだから浮かれすぎちゃいけないって、若先生言ってたし。つまり、わたしにとってはクリスマスより12月27日のが大事ってこと!
「此処、か…」
何とも、ボロっとした感じの建物だ。でも若先生が住んでいるのは旧男子寮だから…それにしても寒そうだなぁ。
チャイムかなんか無いのかと思って見渡して見ても何にも無い。ドアを押しても動かない様子から鍵がかかっているらしい。「ごめんくださーい!」仕方が無いのでちょっと怖かったけれど、大声でさけんでみた。
「お、名前じゃねえか」
「燐…」
あー、そうだった。若先生が住んでるってことは燐もいるんじゃないか。何忘れてんの、自分。出てきた燐に落胆したとか、失礼すぎるよね。
「燐誕生日おめでとう!」
「おう、ありがとな!」
「兄さん、何方が来たの…って名前さん!」
「若先生…!お誕生日おめでとうございます!」
「あぁ、ありがとう!」
若先生は凄く嬉しそうにしている。嬉しいな、若先生の笑顔が見れたから、若先生に冬休みも乗り越えられる。
「兄さん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「何だ?」
「しえみさんの所から頼んでおいた薬が届いたって連絡を受けたから、取りに行ってくれるかな」
「おっしゃ、任せろ!」
若先生の口から“しえみ”という言葉が出てきて少し心が揺れる。でも、若先生が行く訳じゃない。燐がしえみちゃんの所に行くんだ。
「じゃあいってらっしゃい」
「おう!」
「……」
「……」
「名前さん、うち寄ってくよね?」
「い、いいんですか?」
「うん。邪魔者もいないしね」
若先生は意味深なことを呟いて、わたしを中へ入れてくれた。建物内は外よりは温かいけれどやっぱり寒くて、でも通された部屋はきっと2人でいたんだろう、電気も付いていて暖かかった。
「これ、ケーキ焼いたんで、2人で食べて下さい!燐には劣ると思うけど…」
「態々焼いてくれたの!?」
「大したものじゃないんですけど…」
本当に大したものじゃない。だって簡単なパウンドケーキだもの。本当はショートケーキとか作りたかったけど生憎料理はあまり上手くない。だから絶対に失敗しないパウンドケーキにしたの。
「食べていい?」
「え?燐は?」
「いいよ兄さんの分は残しておけば」
そう言ってナイフを入れて切り分けてしまった。若先生ってこんな人だっけ?何でもかんでも“兄さん!”な気がしてたんだけど。
「そういえば燐大丈夫かな」
「何が?」
「さっき雪降りそうだったんです」
「あー、じゃあ尚更早く帰ってくるかもしれないね」
「え?」
「さっきのあれ、嘘なんだ。薬なんて今頼んでないし、頼んであったとしても僕じゃなきゃもらえない」
ね?なんて若先生は笑う。
「じゃ、どうして…」
「折角来てくれたんだから2人で話したかったんだ」
「っ…」
顔に血が昇るのがわかる。わ、若先生どうしちゃったの?いつもと、全然、違うよ…。そんなこと言われたらわたし、期待しちゃうよ?そういえば若先生、敬語じゃない…?
「これ、美味しいね」
「良かった…。若先生に喜んでもらえて嬉しいです」
「ねえ名前さん、」
「はい?」
「今は若先生じゃなくて名前で呼んで欲しいな」
まただ。本当にどうしたの?いつもの若先生では想像出来ないくらい、何だか大胆だよ…?
若先生はにっこり笑って。でもしっかりとこっちを見つめてくる。わたしは何もしていないのに何だか恥ずかしくなってくる。
「わ、若先生?」
「だから名前」
「なんか、いつもと、ちが…」
「名前」
「は、はいぃ…」
「呼んで?」
ななななな!!なん、あ、え、あっ、と、どどどどうしよう…!名前、今、呼び捨てでっ!あ、若先生の顔が近づい…近づいてきてる!?ちょ、ちょっとタンマ!
「雪男…先生」
「先生は余計だけど…まあ、いっか。よくできました」
若先生が頭を撫で撫でしてくれる。いつもの若先生とは全然違うのに、こんな若先生もいいかな、と思ってしまう。
「雪男!どういうことだよ!」
「名前さんを送ってくるよ」
物音を立てて帰ってきた燐をそっちのけで2人して外へ出てきた。
「燐、良かったんですか?」
「うん。兄さんとはいつでも話できるし。さぁ帰ろうか」
「でも寒いからいいですよ」
「こうしてれば大丈夫」
「へっ?」
ね?と笑いかける若先生はわたしの手を握っている。あああ、顔熱くなってきたみたい。体温が上昇してしまっては反論の仕様がない。
「また遊びに来てね、名前」
そんなことを言われてはこくりと頷くことしかできないのだ。
ある寒い雪の日
次もまた、名前で呼んでくれますか
□□□□
何で雪男になったんだろう…?燐のが好きな筈なのに。まぁいいや。強引なゆきおてんてーもいいよね。
111227