もう日付をとっくに越えているけれど、空は依然濃いままで、黒い雲は細長くてちらほらと漂い、不気味なくらいまんまるな月は自己主張激しく爛々と輝いている。まわりには24時間営業の人気の無いコンビニくらいしか見えない。頭上では虫達が忙しなく電柱の光に群がっている。──此処、何処だろうなぁ。

 そんな時電話が鳴った。わたしのお気に入りの曲だ。サビも良いけれど、なんてったってイントロが好き。そんな風に曲に聴き入れて電話に出るのは少し後。いつものことだ。ディスプレイもろくに見ずに耳へとあてる。それにしてもこんな時間に電話なんて、


「もしもし」


『今何処で何してんの』

「此処は…何処だろう?」

『はあ?また迷子?』

「かも」


 電話をしてきたのはレンだった。わたしは散歩するのは好きだけど、すぐ迷子になる。でも、何だか方向音痴とは思いたくないというこだわりはある。レンは呆れた声で言った。


『昨日は』

「え?」

『昨日は何処にいたの』


 昨日…?何で昨日の話を聞くんだろう。いつもだったらそんなこと無いのに。12月の冷たい風が横を通る。寒い。あ、もしかして…


「今日何日?」

『28』

「うっわ…ごめん」

『やっぱり。そんなことだろうと思ったよ』


 一日中待ってたのに来ないんだもんお前、なんて笑いながらレンの声には悲しみと寂しさが含まれていた。


「い、今から!今から行くから!」

『今何処にいるかわかんない奴が何言ってんだか』

「ぅ…」

『近くに何かある?』

「ファミマ」

『じゃあ何処店か聞いてこい』

「らじゃ」


 ピロンピローン。客が来店したことを知らせる音が鳴り響いて、中に入っていたらしい店員がいらっしゃいませーとわたしを迎える。わたしが聞くと面倒臭そうに教えてくれた。こんな時間までお仕事ご苦労様です。
 店を出て携帯で見慣れた番号を押す。場所を伝えると絶対其処動くなよ!と念を押されて電話が切れた。コンビニの前でうろうろしてろって言うのか。ンビニ店員に変な目で見られるかもしれないじゃない。


*****


「レン!早かったねー」

「ばっか。帰るぞ」

「えぇ?もう?」


 わたしの腕をとってずんずん進んでいく。近所で迷子になってんじゃねえよ、ばか。なんて言われたけどわたしの知ったことではない。散歩好きなんだもの。仕方ないじゃない。


「もう1人で出歩くなよ」

「えー何でー?」

「俺が大変だからに決まってんだろ!」

「あぁ、そっか」

「ったく」


 次からは俺を呼べなんて言うもんだから散歩に嫉妬したのかな、なんて思ったりして。




Next Day
大好きよ、レン。

121227

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