「ただいまー」


 返事は無い。あれ、可笑しいな。今日は仕事場じゃなくてちゃんと家に帰るってメールが来たのに。でも部屋の明かりは点いているし、臨也は滅多に電気の消し忘れをしないから、多分部屋の中にいるんだろうけど。仕事に熱中しすぎて気づいてないとか。うん、あるかもしれない。
 リビングに進んでも臨也の姿は見えない。仕事用のパソコンは開きっぱなしで放置されている。最近ハマっているというチャット画面が表示されたまま。当の本人は何処へ行ってしまったんだろう?


「名前ー」


 小さくわたしを呼ぶ声がして、もしかしてと思い寝室へ向かった。風邪ひいてベッドで寝てるのかも。しかし其処にも彼の姿は無かった。結局、家の隅々までまわったけれど臨也は何処にもいなかった。何で?


「名前、名前!」


 とりあえずソファに腰掛けて考え事をしようとした矢先、テーブルの上に乗った手のひらサイズの臨也を見つけた。此方に向かってぶんぶん手を振っている。


「臨也!?な、何したの!?」

「パソコンまで運んで」


 臨也の声はとても小さいけど、わたしと臨也だけの静まり返った部屋ならば問題無く聞き取ることができた。臨也の望み通り両手に乗せてパソコンのすぐ横まで運んでやるとキーボードの上をジャンプして文字を打ち込んでいる。悪いけど、今まで見てきた臨也より今の臨也が一番可愛いかもしれない。これは撮らなくては。


「ちょっと何撮ってんの」

「あまりにも可愛くて…!」

「鼻息荒っ!気持ち悪!」


 臨也に気持ち悪いとか言われるのは心外だけど、なんかこの可愛い奴ならなんでも許せる気がする。あんまり苛立たない。あんまりってか全然。


「波江にさ、珈琲淹れてもらったんだ」

「うん」

「それ飲んだの仕事場だったんだけど、家帰ってきてこの通り。いやー焦ったよ。だから名前にメール入れたんだけどね」


 この姿で今と同じように携帯を操作するの考えたらかなり悶えるわ。

「それ、戻れるの?」

「多分。流石にネブラのじゃないと思うんだけど何処のかわかんないからなー。まあでも多分あそこ」


 臨也がぶつくさ言い始めたので放っておくことにした。臨也がこのままとか可愛いからいいけど、やっぱり困る。それに臨也自身だって仕事に支障を来すだろうし。今は現状を楽しんでるみたいだけど。


「臨也、珈琲飲む?」

「うん」


 臨也のマグカップを取り出し、お湯を沸かして珈琲を淹れる。バリスタの友達に美味しい珈琲の淹れ方を教わったから、波江さんよりも上手く淹れれる自信はある。


「はいどうぞ」

「……どうやって飲めと?」

「嘘だよ、はい」


 冗談でいつものマグカップに普通に淹れたら少々怒られた。ティースプーンでそれを掬って、ソーサーの上に置いてやる。本当は口移ししてあげたいくらい可愛いのだけれどこんなに体の大きさが違ってはそんなことは不可能なので止めておく。
 ちろちろスプーンの上のそれを舐めているこの子はなんて可愛いんだろう…!ソファにどっかり座り眺めるわたしはにんまり笑顔で。いや、にやけていると言うだろうか。


「臨也ー、こっちおいでー」

「何で」

「いいからいいから」


 ぴょい、と手の平に乗る臨也はもうほんっっっとうに可愛くて、小鳥とかハムスターを持っているみたいだ。とっても軽い。いつもの臨也と違ってエロさがない。心なしか目も一回りくらい大きくなっているような気がする。思わず頬擦りをしそうになったところで、「何楽しんでるの」後ろから声がした。


「あれ?臨也がもう一人」

「それサイケだから」

「何それ」

「俺が作った人工知能ロボット」

「へえ」


 サイケを見つめるとにぱっと可愛らしい笑顔で笑った。まるでバレちゃった、とでも言うように。もう一人の方はといえば何故だか不機嫌そう。


「もしかして嫉妬?」

「煩い」

「自分の作ったロボットに嫉妬とか、笑える」

「……」


「っあ!ちょっと!」


 余程苛々しているのかわたしの手からサイケを奪うとジーンズのポケットに押し込んだ。う、痛いよ、臨也さん……なんて呻くサイケは無視してパソコンと睨めっこ。あーもーほんと、どこまでもひねくれてるんだから。


「さっきまで、何処にいたの」

「……押し入れ」

「何でそんなところにいるの」

「…名前がサイケにどんな反応するか見たかったから」

「本当に?」

「でも思った以上にサイケのこと気に入ってて複雑な気分」


 まるで小学生みたいだな。何だ、本物の臨也にも可愛いとこあるじゃないか。


「わたしは一番臨也が好きだよ」


 そう言って後ろから抱きしめた。するとそれを待っていたかのようにぐるりと体をまわしてキスをしてきた。何だこいつ。仕事は、仕事はいいのか。
 耳元に唇を寄せて放った言葉に、臨也を可愛いとか思った自分が馬鹿だったと思った。


「俺は人間を愛してるけどね」




愛情表現第三幕
少しくらい言葉にしてくれたっていいじゃないか


□□□□
最初サイケにする予定はありませんでした、全く。でも収集がつかなくなったのでこんなことに。サイケもここまでちっさくなったりしねーよなんて思いながらまあでもいいかって開き直ってました、サーセンw臨也ちっちゃくなったら可愛いけど…どうなんだろう?毒吐くのかなー?

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