「ねぇ。
別にあたしがあなたを追いかけている訳じゃないのよ。だって現にあなたは、もうこんなに近くにいるじゃない。」

彼女が言う。

「なにが、いいたい?」

僕が問う。

「あなたって馬鹿よね」

「はい?」

いきなり僕に語りだしたと思ったら次は馬鹿呼ばわりなんて酷いじゃないか。

「……」

「……」

「馬鹿は君なんじゃないの」

「え、」

「照れ隠しのつもり?振り向いてほしいの、ほしくないの。わかんないから僕だって動けないんだよ。」

黙る君。そう、言いたいことがなければ黙っていればいいんだ。無駄口なんて叩いてないで、さ。

「…怖かったの。言うこと全部聞いてくれるあなたに近づくのが。わたしから離れていっちゃうんじゃないかって思うと、怖くて」

強気な君に笑顔で対応していた僕の真意を知らないだろう?嗚呼、人の殻を破るのはなんて楽しいんだろうねぇ!こんなに簡単なことはない。汚れた手で荒々しくヒビを入れ、土足で踏み込むだけなんだから。僕にだけ心を許し、頼り、愛す。信じていた人がいきなり自分を裏切った時に見せる歪んだ顔。考えただけでぞくぞくする!

「今更あなたのこと好きだなんて言ったって、困るでしょう?」

いつもと違う顔で、弱々しい声で訪ねてくる君はなんだか熱っぽい。けれど今の僕にそんなものは通用しなくて。もうこの僕は止められないよ。だって、学生が初めて悪いことしてそれが達成できた時の快感!そんなものに包まれているんだからねえ

「実は前々から君が僕に対してそういう感情を抱いていることは知ってたんだ」

今度は僕が君を飼う番。

「そしてもう答えは決まってた。別に構いませんよ?お嬢様。」

彼の
(大きく目を見開いた後、嬉しそうに微笑む彼女は未だ気付かない)

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