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必要の部屋を出た私はふらふらとホグワーツ内を歩いた。
レギュラスの死を実感した私は本当に魂が抜けたように空っぽだった。
…ここはどこだろう?ホグワーツ内なのは確かだったけど,なにも考えられずふらふらと無意識に空き教室に迷い込んでいた。
私は,はっと我に返りここから帰らなきゃ…と思った
でもー,
私はそこにあった,その部屋にそぐわないものに目を奪われた。
天井まで届くような背の高い…鏡…?
枠には金の装飾が豊かに施されている。 二本の鈎爪状の脚もついていた。
枠の上の方には字が彫られていた。
「すつうを みぞの のろここ のたなあ くなはで おか のたなあ はしたわ」
…?
無意識に鏡の前に立った。
鏡を見た瞬間,目を疑った。私のすぐ後ろには困ったように笑うレギュラスが立っていた。鏡の中のレギュは,鏡の前に立つ私に向かって,笑いかけているようだった。
急いで後ろを振り返ったけれど,後ろには誰も居なかった。
私は笑いかけるレギュを見て,やっと止まった涙が,また込み上げてきた。レギュと反対側の私の隣には,シリウスがいて,そんな私たちの様子を見て微笑んでいた。
実際の私は,ダムの関をきったみたいに,涙が溢れてきて止まらなかったけど,
鏡の中の私は,レギュラスとシリウスに涙をふいてもらって,
泣きながら笑っていた。
「泣いてちゃ可愛い顔が台無しだろ?」
なにも聞こえなかったけど,鏡の中のシリウスはそう言ってるように見えた。
レギュも泣いている私を慰めているようだった。
まだ出会ったばかりの小さな頃の3人のように,
鏡の中の私たちは,笑いあっていた。
「…スピカ,まだ,ホグワーツにいたのかの?」
声にハッとして振り替えると,声の主はダンブルドアだった。
「寄り道せずに真っ直ぐ帰りなさいと言ったと,思ったんじゃが…」
「…ご,ごめんなさい。」
注意をされ,小さくなった私にダンブルドアは優しく微笑みかけてくれた。
「この『みぞの鏡』の虜になったのは,君だけじゃない。君と同じように,何百人もの人が虜になったのじゃ。」
「『みぞの鏡』…この鏡は…?」
「君はこの『みぞの鏡』は私たちに何を見せてくれると思うかね?」
「…いいえ…。…わかりません。」
私は流していた涙をぬぐいながら答えた。
「では,ヒントをあげよう。この世で一番幸せな人には,これは普通の鏡になる。そのまんまの姿が映る。これで何かわかったかね?」
枠の上の方に彫られている字を見て,少し考えた。そして私はひらめいた。
「『わたしは あなたの かおではなく あなたの こころの のぞみ を うつす』…この鏡は人の心の望みを映すんですね。」
「左様。鏡が見せてくれるのは,心の一番奥底にある一番強い『のぞみ』じゃ。それ以上でもそれ以下でもない。君が何を見たのか判断しかねるが,この鏡は知識や真実を示してくれるものではない。鏡が映すものが現実のものか,はたして可能なものなのかさえ判断できず,みんな鏡の前でヘトヘトになったり,鏡に映る姿に魅入られてしまったり,発狂したりしたんじゃよ。君のように泣いたりもな。」
確かに,私は"ここにずぅっと居たい。"と思ってしまっていた。ここでずっとレギュラス(とシリウス)の幸せそうな顔を見ていられるだけで何もいらないと思ってしまっていた。
「スピカ,ホグワーツに来ても,もうこの鏡を探してはいけない。夢に耽ったり,生きることを忘れてしまうのはよくない。それをよく覚えておきなさい。もう日が落ちている。死喰い人に気をつけて帰るのじゃぞ。そうだ,ハグリットに君を送らせよう。」
「…はい。」
帰りながら考えた。レギュラスだったら,みぞの鏡に何が映るんだろうって。そこには私も映ってるかな?あなたは最期に何を望んだんだろう?
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