06



二次試験が終わって合格者全員が飛行船に乗った時にはもう夜になっていた。ネテロさんは元々最終試験で出てくる予定だったらしい。

「次の目的地へは明日の朝8時到着予定です。こちらから連絡するまで各自自由に時間をお使いください」




「って言ってたけど皆どうするよ」
「あ、俺は飛行船の中探険してくる!ゴン、一緒行こうぜ」
「うん!!」

そう言ってゴンとキルアはどこかへ走っていった。ぐったりしてるレオリオとクラピカと違って体力有り余ってんな…

「元気な奴ら…」
「アルはどうするのだ?」
「私はご飯食べて寝るかな。徹夜で試験会場探し当てたしもうほんと疲れた。」
「そんな風には見えないけどな…」
「私ポーカーフェイスは得意だからね!二人は?」
「オレはとにかくぐっすり寝てーぜ…」
「私もだ。おそろしく長い一日だった。…しかし気になるのだが、試験はいったいあといくつあるんだろう。」
「あぁ、そういえば聞かされてねーな。」
「その年によって違うよ」

あれ、トンパさんか。彼ら曰くトンパは何度もハンター試験に参加しているベテランらしい。

「大体平均して試験は5つか6つくらいだ。まぁその年の試験官と試験内容で変わったりするがな。」
「っていうと、あと3つか4つくらいと考えるのが妥当かな。」
「なおのこと今は休んでおいたほうがいいな。」
「おいおい、ここでも気をぬかない方がいいぞ。」
「なんでだよ?」
「さっきの進行係は『次の目的地』としかいってないからな。連絡があるのも朝8時とは限らないわけだ。寝てる間に試験が終わってた、なんてことにもなりかねないぜ。」

そう言ってトンパはどこかに行ってしまった。よくもあんな法螺を吹けたもんだよ。逆に感心するね。

「最後に言ったあれ、どうなんだ?」
「どうもなにも、嘘っぱちに決まってるじゃん。」
「どうしてそう思う?」
「まずここが試験会場なら試験官がいるはずだし、試験の内容を言ってる。それにそのときには三次試験以外の試験官は基本的に試験会場の近くにはいない。」
「ちょっと待て待て!最初に言ったのは一次試験だと当てはまらないぞ。」
「一次試験のときは遠回しに言ってたじゃんか。んでその試験官は二次試験にいたはいたけど私達受験生には悟られないように気配を消してた。それと違って今はここには最終試験の試験官であるネテロさんがいるからここは試験会場じゃない。一次試験と二次試験、そして今の状況を比べると自然に出てくる違いだよ。」
「な、なるほど…たしかに一理あるな。」
「それにさ、」
「ん?」
「あの顔、なんか悪いこと企んでるよ。試験の数を教えたときと表情や目つきがかわったから。」
「私には変わらないように見えたが…」
「そんなの人間を嫌というほど見たら自然と分かるもんよ。さーてゆっくりしますかねー!」

ぐい、と背伸びをして私達は食堂を探すことにした。早く睡眠をとりたいもんだなぁ…














「…アルは何者なんだ?」

オレを挟んで左にレオリオ、右にアルが寝ているのを眺めてふと思った。レオリオのいびきがうるさいのか少し顔を歪めながら少しだけ距離を空けて猫のように小さく丸まって毛布をかぶって寝ている。一見すると死んでいるように見えるがそれほどまでに身動きすらしないのだ。じつはそこにいないんじゃないか、と思えるほどに。


「…ッ!!」

突然アルが飛び起きてこちらを見たときにほんの一瞬、獣のような殺気を感じて体が固まるのを感じた。あれが蛇に睨まれた蛙の気持ちなのだろうか…

「…ごめん、クラピカの方角から殺気がとんできたような気がしたから。」
「少なくともここは試験会場ではないのだろう?ならそこまで警戒しなくてもいい。」
「…まぁ、癖みたいなものだからね、こうやってずっと警戒してるの。多分どこかで喧嘩でもやってんのかな」
「癖、か。癖でそこまで警戒するものなのか?」
「まぁね。誰がいつ私を狙ってるのか分からない、そういう環境で生きてきたもの。」
「それはアルにしかない何かがあるからか?だから共有できるものがないと言ったりやたらに人の表情や言動に敏感なのか?」
「私は共有できるものがないなんて言ってないけど?」
「私には遠回しに言ってたように見えたがな。」
「…君は随分勘がいいと見た。」
「私もそうならなければならない状況下になったことがあるからな。」

そうだ、オレは復讐のために今を生きているんだ。奴らに同じ苦しみを味あわせるために…!!

「そっか。お互い大変なんだねぇ」
「っ!」

固く握りしめた手をそっと解く手に思わずびっくりしてしまった。あまりにも優しくて、暖かい手にどくりと心臓が音を立てる。ゆっくりと開かれた手にはいつの間にか血がにじんでいた。

「血が出てるね。大したことないけど試験のこともあるしほっとけない、かな。」

ふわり、と一瞬だけ手が優しい光に包まれると手のひらの傷はきれいに消えていた。まるで手品のように。

「…これは、」
「君ならもしかしたら分かるかもしれないね。さぁ、君ももう寝るといい。」

おやすみと呟くとまたさっきのように丸くなってしまった。死んでいるように見える、けれど彼女は生きている。さっきの手の暖かさは生きているもののそれだ。死人の手は寒気がするほどに冷たいことをオレはよく知っている。

「アル。」
「…何?」
「こっちに来るといい。それなら安心できるはずだ。」

安心なら共有できるだろう?と言うとアルは少しだけ笑って君の隣だとレオリオがうるさくて眠れないよと言った。










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