06



ゾルディック家を出て、山を降りた一行の話題はこれからどうするか、ということである。キルアを連れ戻してくるという目的が達成された以上、皆はハンターライセンスを持って各々の目標へ歩いていく。そんなものがない私としては羨ましいものだ。
レオリオは医者になる為に故郷へ帰って猛勉強すると張り切っている。
クラピカはクモが現れるというヒソカからの情報の元、雇い主を探しに行くと決意を秘めた目をしていた。
ゴンはハンター試験から持ってきた44番のプレートを叩き返すときっぱり言い切った。
キルアはゴンに着いていくらしい。

「そういや、アルはこれからどうすんだ?」
「私かー。ヒートヘイズとして仕事が来てるからまずはそれ
をこなさなきゃな。恐らくヨークシンのオークションまでには終わるだろうし」
「そっか、それならまた会えるね!」

またこの面子で再会するのはヒソカが、クモがいるとい
う9月1日のヨークシンシティで行われるオークションで、だろう。皆それを信じている。それが私はとても嬉しくて思わず顔が綻んだ。

「あぁ。また会えるといいね」

また会おう。と手を振ることがどれだけ幸せだろう。


















「さて、ここでお前らともお別れか」
「そうだね。勉強しすぎでぶっ倒れるなんてやめてくれよレオリオ」
「レオリオに限ってそれはないだろう」
「クラピカてめえ」

この軽口の叩きあいもしばらくできないのは少し寂しいな、なんて思うのすら久々すぎて彼等といるのは私にとってとても心地良いものだったと実感した。
じゃあなー!!とただでさえ人が多い空港で人目を憚ることなく大声で手を振るレオリオを苦笑しながら見送ると当たり前だがクラピカと二人だけになった。

「大分静かになったな」
「まぁうるさい筆頭のレオリオとゴンがいなくなったからね」
「…アル」
「うん?」
「言いたいことがあるなら遠慮なく言ったらどうだ」

ありゃ、バレてましたか。と茶化せばなんとなくそう思ったと返された。なんじゃそら。

「うーん…聞くか迷ってたんだけどいいか」
「なんだ?」
「クラピカ、君は本当に復讐をするのかい?」

そう聞くと彼は驚いたように目を見開いた。うん、予想通り。

「そんな事を聞きたかったのか?愚問にも程がある」
「いや、君がそう答えるのは分かっていたよ。ただ、確認にと思ってね」

そう。確認。ここで引き返すチャンスは恐らく最後だ。だけどクラピカはそのチャンスを即否定して潰したのだ。
引き返すということすら彼はしないのだろう。私としては、できることなら同じ轍は踏んでほしくないのだが。

「クラピカ。君はこれからたくさんの後悔をするだろう。だけど後ろを振り返ってはいけないよ。そういう選択をしたのだから。」

人を殺すことはその人の未来を潰すことである。例えそれがどんな悪党であれ、だ。
復讐とは前を向き続けなければ成し得ない。復讐を遂げたことを後悔していては誰のためにもならないのだ。それならいっそのこと復讐をやめてしまうか殺したことを後悔しないかの二択にするべきと私は思っている。

「なんて、押し付けがましいかな。だけど君には人を手にかけることがどういうことか、覚悟をしていてほしいからね。」

彼にとってクモは駆逐するべき害虫か何かだと思っているかもしれない。だけど、相手は人間なのだ。同族殺しなど、人間くらいしかしないのだから。

「私は旅団への復讐のために生きてきた。今更立ち止まるなど有り得ない」
「知っているさ。私もそうだったからね。」

俯いてゆるゆると首を振るクラピカに小さく笑って答えた。
まるで、昔の自分を見ているような気がしたのだ。周りが全て敵に見えるあまりに差し伸ばされていた手を振り払って見ないふりをしていた、あのときに。

「忘れないで。私は、いつもクラピカの味方だからね。」

それだけ言って頭を二度軽く叩いた。その言葉にハッとしたように顔を上げたクラピカの目はとても驚いているようだった。
私の顔はどのように彼に写ったのだろう。きっと同情とか、憐れみだとか、そういう表情をしていただろう。
いくら彼に自分を重ねたとしても彼は私ではない。居心地が悪くなって早くその場を立ち去ろうと思った。いつまでもここにいる場合じゃないし。

「アル」

じゃ、と短く告げてクラピカに背を向けて歩きだしたが、彼は私を呼び止めた。

「また、会えるといいな。」

振り返るとそう言ってレオリオ程ではないが手を振るクラピカが見えた。少しだけ手を振り返すとまた前を向いて歩きだした。
彼は穏やかな顔で笑っていた。










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