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「アルが先に行ったってどういうことゼブロさん!!」
「ゴンくん、落ち着いてください」

使用人が寝泊まりしている小屋に泊まって一夜明けた朝。昨夜夕食を食べたテーブルには一人だけいつまでたっても来なかった。彼女が夜のうちにキルアの祖父と接触し、そのままキルア宅へ向かったのだという報せを朝一番で聞いたゴンは大声を出してわなわなと震えていた。

「彼女が噂のヒートヘイズなのですね。旦那様が直接電話してきたから何事かと思いましたよ」
「ひーとへいず?なんだそりゃ」
「裏社会では有名な何でも屋、というところでしょうね。要人の護衛や裏ルートでしか手に入らないような特殊なアイテムの運び屋、他にも暗殺などもやっているそうです」
「まさに何でも屋だな…って暗殺?あいつが?」
「ええ…ですから私も驚いたんですよ。」

見た目で判断してはいけませんねと呟くゼブロと唖然としているゴンとレオリオ。だが、彼女がゾルディック家と繋がりがあることは予想できたはずだ。

「あー!!そういえばあいつキルアの兄貴と知り合いっぽかったじゃねーか!!」
「えっそうなの?!」
「ゴンは気絶していたから知らないのも無理はない。お互いの名前は知っていたし口調から知り合いとも解釈できる。」

それに。アルは知り合いでも距離は近い方だと推測できた。アルを探していて偶然話を聞いてしまったときに聞いたやり取りはまるで友人同士のそれで何故か少し胸が痛くなったのを覚えている。


裏を知る覚悟は在るかと問われたときの彼女の表情がちらついて離れない。

答えは、もう決まっているような気がした。
















ゾルディック家の屋敷の一室。ゼノに連れられて私は電気椅子を思わせる椅子に座り、探しに来た少年とよく似た銀髪の大男と対峙していた。ちなみに連れてきた本人はどこかへ行ってしまった。

「ジルバ、久し振りだね。」
「そちらもな、アル。キキョウには会ったか?」
「あぁ。…カルトには怖がられてしまったけどな」

あいつは人見知りだからな、と苦笑いしているのを見ると暗殺者の前に一人の父親なのだと嫌でも思ってしまう。彼は顔見知りの私でも隙を見せず、警戒を解こうとしないのだ。それは自分も同じなのだが。「さて、今回はどんな用件だ?また仕事のことか?」
「ま、本題は当たりだね。先にそちらを話そう。」

本題。つまり、ついでの用事もあるということだ。
この男は聡いのだ。ついでの用事についても大方予想はついているだろう。

「今度、ヨークシンでオークションがあるだろう。そちらは何かしらの仕事はあるか?」
「今のところは無いな。ヒートヘイズは何かあるのだろう?」
「斡旋しているところから私宛にマフィアから一件来ているよ。…調べてみたんだが今回、かなり厄介なことになりそうだ。どうも蜘蛛が来るらしくてな」

蜘蛛、と聞いてジルバは目の色を変えた。Sランク級の指名手配がなされている蜘蛛、通称幻影旅団は一流暗殺者の彼等も手を焼いているのだ。私もできることなら穏便に済ませたいがはたして上手くいくだろうか。

「もしかしたらそっちにも仕事が来るかもしれないと思ってな。盗賊がオークションに出てくるとなれば私は嫌な予感しかしなくてね」
「忠告、か。」

ふむ、と唸るジルバを眺めていると扉の開く音と覚えのある一つの気配を感じた。そちらをみれば予想通りと私は笑ったが彼は驚いたようだった。
父親によく似た銀色の少年、キルアは恐らく父親に会いに来たのだろう。顔には細かい傷が多く、そういえばキキョウさんが独房にいると言っていたのを思い出した。

「アル?!なんでこんなとこいんだよ!親父と知り合いなのか?」
「まあね。君の父親と祖父、あとイルミとは仕事一緒にしたり情報交換したりしてるしなにかとお世話になってるんだー」
「こちらから仕事の依頼もしているからな。持ちつ持たれつというところか」
「マジかよ…初耳なんだけど」
「まあ三人には仕事場でしか会わなかったしここに来たのも初めてだからなぁ」

おかげで迷ったよ、と笑ってみせたらキルアは少しだけ表情が和らいだ。彼も父親に話があるのだろう。邪魔者は退散しましょうかね。

「さて、ついでの用事も済んだしちょうどいい。親子同士の会話の邪魔になる前に帰らせてもらおうかね」
「話は終わりというわけか」
「あぁ。本題はさっきので全部だよ。」

話は終わりだしさっさと退散だ。椅子から立ち上がって扉へ向かう。後ろからキルアが呼び止める声を聞いていたらそういえば彼に言おうと思っていたことを思い出した。
扉が開いた出口で立ち止まり、振り返ってキルアを見た。ゴンにも劣らない、とてもきれいな目だ。それが少しだけ羨ましいと思いながら私は口を開いた。




ゴンたちの所へ行くから、待ってるよ。



















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