03



夜になって空には満月が浮かんでいる。辺り一面は気が生い茂り、後ろの門さえなければここが自然地帯の森だと思ってもおかしくないだろう。…あながち間違いではないけど。

「俺達も入って平気なのか?」

レオリオの問いに試しの門から入れば大丈夫だと言うゼブロは私の方を向いた。

「しかし驚きましたよ…まさか4の扉まで開けてしまうとはね。」
「お誉めに与り光栄でーす。純粋な腕力だけでどこまでいけるか試したかったんで」
「純粋な腕力だけでって…」

化けもんかよ、とぼやくレオリオを女性に失礼だぞとクラピカがぴしゃりと言っているのを横目にゴンが一点の茂みを見つめていた。

「…ゴン」
「なにか来る。」

茂みを掻き分けて姿を現したのは私達の何倍もの大きさの犬のような獣だった。その場に座るとこちらを見て動かない。その目は何の感情も持ち合わせていない、生きているはずなのにまるで機械のようだった。
これでは意思疏通などできるわけない。戦えるかい?と聞くゼブロの問いにゴンは首を横に振って怖いと汗を浮かべながら答えた。











夜遅くということもあり、そのまま泊まりしばらくは使用人の家で試しの門を開ける特訓をすることになった。

「ぐあー…疲れた」
「この家物凄いね…」
「あぁ。」

ぐるりと部屋を見渡す。元々使われていなかったらしく少々埃っぽいが野宿より何倍も良い。男三人衆はクタクタらしくベッドに転がり込んだのを見届けて自分も空いていたベッドに腰掛けた。

「しっかし、ここまで徹底して鍛えるなんてそうそうないよね」
「うん。スプーン持つのにも大変だったし」
「確かにな!もう味なんて気にしてられねーよ」
「だが、そこまでやって初めてあの力が得られるのだろうな」

人間はあの歳ほどになると体力が著しく低下する。それを防ぐためにも、あのような形の特訓は必要不可欠なのだろう。
だが、四人は若い上にセンスも持ち合わせている。一ヶ月以内での習得はできないわけではなさそうだ。

「そうだ、アル!」
「うん?」
「どうやったら4の扉まで開けられるの?!」
「ゴン、君はとりあえず腕を治そう。」

















「…さて、いつまで気配を消すつもりなんだい?ゼノ」
「いつから気付いとった?」
「門を通り抜けた時から」
「なんじゃい初めからか。つまらんのう」

地面を踏む音すら聞こえない。ミケと会った場所に戻れば待っていたかのようにゼノは姿を現した。

「3年ぶりだったか」
「あぁ。…アンタは何も変わってないな」
「ジジイは3年ごときで急に老け込んだりせんわい」
「しってるさ。アンタの孫は背と髪が伸びたけど」

子供の成長は早い。若草のようにあっという間に背丈を伸ばしてゆくものだ。

「お主はやはりというか…なにも変わっとらん」
「さっきもらったその台詞そのまま返そうか?」

お主らしい、と笑い飛ばしたゼノはそのまま私の肩をばしばし叩いた。わりと力加減なしだからけっこう痛い。

「息子がお前さんを呼んどっての。いつ話しかけに行こうか迷っとったとこじゃった。」
「そりゃちょうどよかった。私もアンタとジルバに挨拶に行こうかと思ってた。」
「使用人には後で執事から連絡しておこう。ついてこい」

そう言うとあっという間に木々を飛んで先に進んで行く。私も後に続いた。

「そういえば」
「なんじゃ」
「なんでジルバが呼びに来たんだ?そういうのって執事にやらせるんじゃないの?」
「たまには動かにゃいかんじゃろうて。体が鈍ってしまうわい」
「現役のくせに何言ってんだろこのじいさんは」

時々茶目っ気なところがあるこのじいさんは嫌いというわけでもなく、むしろ人間性は好きな方だ。

「アルはウチは初めてだったかの?」
「ん、あぁ。そうだな。」
「ふむふむ、なるほどのう…」

嫌な予感というものはよく当たる。ゼノはこちらをみていたずらっ子のようににやりと笑った。

「ならばワシについてこられなかったら即迷子じゃな!頑張って追い付いてみろーい!」
「てめ!待てよ!!私客人!!」

客人だからといって優遇が許されるほどこの暗殺一家は優しくなどない。









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