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「あ、いたいた」
「アルか。」

4次試験が終わった後、面接に行くゴンを見送るとアルがどこからかやってきた。ゴンと合流してレオリオの点数分のプレートを回収したことを話すとどこか安心した様子でそっか、と口を開いた。

「ごめんね、あの時はろくに受け答えできなくて。」
「そういう状況だったのだろう?仕方ない。」
「はは、そう言ってくれるとありがたいな」

「…アルは、」
「ん?」
「ギブアンドテイクと言ったな。」
「そうだね。ま、内容によるけど」
「私はアルがなぜハンターになろうとしているのか知りたい。」
「ふむふむ。」
「だから、私のハンターを目指す理由を話そうと思う。」

そう言うとアルは近くの壁に背中を預けてこちらを見た。話を聞く、ということだろう。

ハンターになる理由、つまり幻影旅団への復讐とそれについてのいきさつを話す間、彼女は目を逸らすことはなかった。ただ、話し終わるとどこか懐かしそうな顔をして目を伏せた。

「なるほど、同胞のための復讐…か。」
「…幻滅したか?復讐など、と笑うのか」
「いや、君を笑う資格なんてないよ。」



「私もかつては復讐者だったんだからね。」
「な…」
「分からない?私もある人間が憎くて堪らなくてその命を奪ったんだよ」

正直、驚いてはいた。彼女のことをほとんど知らないとはいえ…。アルは腰に提げている双剣に手を添えて目を伏せた。

「私の住んでいた村に突然やってきてみんなを皆殺しにして。私だけのうのうと生き延びたことに腹もたったし、なにより憎かった。」

彼女も俺と同じだった。膓が煮えくり返るような憎しみは人を狂わす。大切な人達の苦しみを今度はお前たちが味わえ、と。

「そこに行き着くまでたくさんのことがあった。人間を殺したことだってある。」

この手は血みまみれで、私はそんじょそこらの殺人鬼よりかは人の命を奪ってきたのだと。アルはなんでもないことのように呟いた。

「それは…仕方のないことだったのだろう?」
「…そうだね。じゃないと私は復讐をなせないまま死んでたしね。」
「復讐が終わったなら、今何を…?」
「何でも屋さ。ヒートヘイズって知ってる?」

ヒートヘイズはそちらの世界では有名らしい何でも屋の名だ。どうやらその仕事のためにハンター証が必要らしい。

「ハンターってのは随分優遇されてるね。未開地区の立ち入り許可とか罪責の免除とか。」
「ハンターは誇り高い仕事だ。優遇されて当たり前だろう。」
「ふぅん」

つかつか歩み寄ってきたアルは真顔で何を考えているか分からない。












「それならさ、人を殺し、誰からか憎まれるであろう私も誇り高いハンターといえる?」
















「なぜ、そんなことを聞くんだ」
「復讐をしたいと言っていたね。こちらに来たら否応なしに分かる。」
「こちら…?」
「裏、ということさ。裏を一度知ってしまえば表を表だけ見ることはできなくなる。表を見て、裏も見ようとする癖ができるんだよ。」

とても醜いことだ、と悲しそうに言っていたが裏を知るとさっきの意味が分かるのだろうか。共有することが、できるのだろうか。

「裏を知るということは人の本質を知ることだ。クラピカ、君にその覚悟が在るかい?」

答える前に彼女は歩きだしていた。アナウンスでアルが呼び出されたのだ。

一度だけ振り向いて小さく笑っていたアルが見えなくなるまでの間、俺は答えを出すことはできなかった。









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