「アイリス…今日は非番なのだが…」 「非番も何も関係ないでしょ?ほら、座って座って」 気だるい躰をベッドから起こして腰掛ける。俺の後ろに座ったアイリスが少しほつれた後ろ髪を櫛ですいてくれる。 「ほんと、羨ましいくらいのストレート」 「あまり嬉しくはないぞ…」 片手にゴツい機械鎧をハメている俺の為に、アイリスは毎日の様にみつあみを結ってくれる。 右手を失い、機械鎧にし始めた頃から気が付けばアイリスが結うのが日課になっていた。暫く、結び目は黒いゴムだけだったのだが… 「アイリス…まだか?」 「うーん…もうちょっと…、はい!行ってらっしゃい!気をつけてね」 いつもよりにこにこしているアイリスに疑問を持ちつつも、俺は片手を上げて部屋を後にした。 機械鎧のメンテの為に通路を進む度、挨拶をして通り過ぎる部下達が必ず振り返る。 (………なんだ?) かと言って何か起きているという訳ではないらしい。いつもと違う空気に違和感を感じながらメンテ部屋のドアを勢いよく開け、背を屈めて入って行った。 油を差したり締まり具合を確かめている間も、他の奴らからの視線が気になる。 「おい。お前達…俺に何か隠してないか…?」 「いーえ、なーんにも」 「…どうして突然棒読みになる」 「いえ、だから“俺達は”何にも隠してないですよって……ぷぷ」 「っ…!!お前、何を隠している?!」 「な、な〜んにも!」 「ぬうぅう…」 専属技師をいくら絞めても結局分からず、放っておくつもりでいたが…。 「バッカニア大尉」 「は!」 「昨日伝えておいた件について少将から………」 「………?」 やはりマイルズ少佐も同じ様に俺を見て動きを止めた。 「マイルズ少佐、私の顔に何か付いておりますか…。今日すれ違う者皆が不審な顔をしますが…」 「…いや…不審というより…愛されているな、と」 「は……………?」 真顔でいう少佐に間の抜けた返事をしてしまった。 「気付いていないのか…?」 「何を…」 ひゅぅっ―――… ちょうどその時冷たい風が後ろから脇をすり抜けて行った。 「…!!!」 風に吹かれ後ろに垂らしたみつあみが肩にかかり目の前に靡く。 みつあみの先に付いた小さな蝶結び。 「ぬぅ?!こ、これは…!?」 みつあみが長い為全く気が付かなかったが、普段は黒いゴムでまとめてあるところに淡い桃色のリボンが絡めて結んであった。 背後に軍靴の音が響く。 「くくっ…アイリスか?なかなか良いセンスをしているな」 「…っ、アームストロング少将!」 マイルズ少佐が顔を背けて笑いを堪えているところへ現れた、我らが女王様。 「も、申し訳ありません!今すぐ外して…!」 「………ならんっ!」 「は…………?」 真面目な顔の少将から渇が飛んだ。 「そのリボン、取ったら降格。」 「な、なぜ…ッ?!!」 固まる私などお構い無しに究極の一言を言い切ると、書類を片手に脇を通り過ぎて会議室に消えていった。 「そうそう、言い忘れたが…アイリスに当たるなよ?」 再び入り口からひょいと顔を出しニヤリと笑うと会議室のドアは閉められた。 「………………」 「これは気に入られたな…」 やれやれと言った顔のマイルズ少佐の隣で暫く立ち尽くしたのは言うまでもない。 そして、現在。 「ねぇ、今日は何色がいい?」 「…お前に任せる」 人間の慣れとは凄いものだ。始めは恥ずかしくて仕方なかったものが、一月、二月経った頃には日常化し、逆に何か付いていないと落ち着かない様になっていた。 リボンの色も緋、紺、空、深緑、藤紫…等々バラエティーがどんどん増えていく。 「じゃあ…昨日は空色だったから、今日はブリッグズの雪と同じ白ね」 「あぁ」 キュッ。みつあみを止めてあるゴムに器用に白いリボンを絡めて蝶々に結ぶアイリス。 「はい、出来上がり 行ってらっしゃい!」 「おぅ!」 リボンの付いたみつあみを指でピンと弾くと手を振るアイリスに片手を上げ、また部屋を後にした。 fin 戻 1/1page |