2、3年前の年明け。 中央では新しい年を家族や恋人と過ごす者が多い中、ここ北の城塞ブリッグズではワケ有り者も多く、また北の驚異に休みも何もあったものではない…とほとんどの者がここで年を越していた。 バッカニアと共にアイリスもまたブリッグズで新しい年を迎えたのだった。 「アイリス…」 「…んっ……」 優しい呼びかけに目が覚める。 温もりの中瞼を上げると、私の腰を抱く様に横になっている彼と目が合う。 「バッカニア…おはよ」 伸び上がって口付けると、頬を撫でた指先で髪を優しくすいてくれる。 「アイリス、起きろよ。そろそろ始まるぞ」 「うん…」 身支度を整えると地下広間には既に大勢の男達が集まり新年の宴を始めていた。 見渡す面子は然程変わらない為、相変わらず広間内の男密度(むさ苦しさ)は高い。更に新年という事で少々アルコールも入り暑苦しい度合いはピークに達する。 「アイリスちゃ〜ん!こっちこっち〜」 「は、はーいっ、今行きます」 新年くらいバッカニアとゆっくりしたいところだが、女成分の少ないブリッグズ。何だかんだで引く手あまたでのんびりすることも出来そうにない。 「アイリス〜これ向こうに運ぶのよろしく〜。ほら、あんた達も料理運んで運んで!」 「へーい」 宴会をてきぱき切り盛りする軍医のお姉さんの一声で、若い者達が料理を片手にあちこちに散っていく。 バッカニアを見れば、普段からアルコールに弱いのにいつもより少し多く呑んだのだろう…赤ら顔で豪快に笑いながら部下の背中をバシバシ叩いている。 (…これは二日酔いの勢いね…) けれども緊張感を伴った仕事でしかめっ面をしている事が多い事を考えれば、陽気に過ごす時間がたまにはあってもいいだろう。 飲み食い、歌い踊り、男同士の語らいにあっという間に時間も過ぎ、宴もそろそろお開きの頃合いになった。 「バッカニア大尉〜、起きてくださいよ〜」 「…むうぅ……」 眠ってはいない様だか起きてもいない。端から見れば冬眠間近のクマ。動かそうにも動く筈がない。若い部下達が5、6人、バッカニアを抱えようと四苦八苦するが… 「無理だーッ…!!」 「なんでこんなに重いんですか!!」 「俺達の方が下敷きになりますよ!」 「アイリスちゃんッ、よく押し潰されませんね」 「あはは…」 この状況でもアチラの話題が出てくる事には苦笑で返すしかない。(皆少なからずアルコールが入っているので仕方ない) 「これは…もう」 「ああ、冬眠だな…」 「という訳で…」 「「「アイリスちゃんよろしく!」」」 押しても引いてもどうにもならないので結局諦めた様である。 「今年はダメだったわね」 今までの宴を同じく見てきた軍医が隣で呟いた。 「…そうね。まぁ、ここはそんなに寒くないし、朝までいても大丈夫、かな」 風邪を引かない様に毛布を掛けたり料理の後片付けをしているうちに、一人また一人と動ける者は自室に戻っていった。 「アイリスお疲れ〜。また明日ね〜」 「うん、おやすみなさい」 少し酔って陽気な軍医を見送ると広い空間にはぐーぐー寝息を立てるクマ大尉だけになった。 何やら幸せそうにむにゃむにゃ寝言を言って丸まっている。その様子が可愛くてくすりと笑ってしまった。 このまま一人にすることは出来ないのでバッカニアに掛けられた大きめの毛布にそっと入り込む。 「弱いのに…あんまり無理しないでね…?」 向かい合わせで眠る彼の唇に軽く口付ける。寝顔を眺めている内に、一日中忙しく動き回っていたせいか急に眠気に襲われ、バッカニアの温もりを感じながら眠りに落ちていった。 翌朝。 「なに…この微笑ましい図…」 「なんつーか……大尉、めちゃくちゃ幸せそうっすね…」 二日酔いの者も含めてぞろぞろと広間に集まった者達がぐるりと囲んだ中心には… バッカニアの腕の中で守られる様に眠るアイリスの姿があったという。 fin おまけ。 「大尉…めっちゃラブラブでしたよ…」 「…………………言うな」 人前では信じられないくらいストイックになる彼は毎日部下達にからかわれる度、穴があったら入りたいと頭を抱え唸るという。 戻 1/1page |