「アイリスちゃん」 「は、はい…?」 医務室でニールの仕事を見ていたら、突然突き出された右手。 「??」 「ほら、手ぇ広げて」 受けた両手をそっと広げると手の平に転がった小さなナットがふたつ。 この形は見た事がある。とてもよく知っているあの人の肘と肩に付ける部品のひとつ。 「ニールさん…これ」 「誰のだと思う?」 「ぇ…?」 全てお見通しと言った風にニヤリと笑うあの人の専属技師は意地が悪い。 「バッカニア…さんの…」 視線を反らし気味に答えるとハァァッと盛大な溜め息が聞こえてきた。 「あのさぁ、アイリスちゃん。大尉と付き合い出してもう何ヶ月?」 「…は、半年です」 「半年経ってまだクマ大尉にさん付けしてるわけ?」 「だ、だって…」 ダメだこりゃとでも言いた気に腰に手を当て顔を覆った。 出会って一年は経つが付き合い出したからと言って今まで当たり前の様に言っていた呼び名はそうそう変えられない。更には付き合っている相手も相手で人前で二人になったり、二人の関係に言及される事程苦手な事はないらしい。 半年も経つのに、キスさえもまともにしていない気もする。 大切にされているのは十分伝わってくるから自分もあれこれ欲求はないし、あったとしても言わないだろう。 「…で、あの…このナットをどうしたらいいの?」 「もうちょっとしたら大尉がメンテに来るから今付けてるヤツと付け替えて」 「え?!私が…?!」 「いつも俺の仕事見てるのは、大尉の機械鎧整備もしたいって考えてるからでしょ。アイリスちゃんがやれば大尉も喜ぶだろうし」 「そんなぁ…」 実際、女医の手伝いの傍ら機械鎧整備を見続けているのはその為には違いない。 けれど、二人でいる事にもまだ慣れないのに軍服を脱いだ彼の横で機械鎧を整備するなんてとても考えられない。機械鎧でも指が触れる感触は分かるだろうし、よく気がつく彼の事だ、私が集中出来ていない事など直ぐに分かるに違いない。 「や、やっぱり…私っ」 断ろうと口を開けた瞬間、 「おい、ニール!このナット、絞まり具合がイマイチ悪いんだが…」 タイミングよくバッカニアが医務室を訪ねてきた。 「!!」 「…アイリスも来ていたのか」 私に気付いた途端、柔らかな表情を見せるバッカニア。その笑顔が優しくて、愛しくて… 「…っ、ごめんなさい!」 「…アイリスっ?」 胸の動悸に耐えられなくて部屋を飛び出した。医務室に残された男二人。 「どうしたんだ、アイリスは?」 「…大尉がいつまでもアイリスちゃんを抱かないからショックで出て行っちゃいましたよ」 「なにぃッ?!!」 「………冗談ですって。」 「……ッ!!」 こんな風に専属技師のさじ加減ひとつで、一喜一憂している二人。 「(…こりゃ、二年経ってもこのままだな…。さて、どうしたもんかな〜…)」 クマ大尉のナットを絞め直しながら次の手を考えるニールであった。 「あ…(ナットまで持って来ちゃった…)」 → 戻 1/2page |