朝、カッチリ髪型をキメて、コーヒー片手にメンテ室のカーテンをくぐると俺を呼ぶ声がした。 「んぁ…?…なんか今大尉みたいな声がした気が…………」 周りを見渡してもそんな巨体はいない。 「……気のせいか」 俺疲れてんのかなぁと首をぐるりと回して伸びをした。 整備の準備の為にマイスパナちゃんを手に取ろうとした瞬間、 「んー……?」 右手の指先に何かが触れる感触。 (なんだ?スパナにネズミでも付いてたか…?) んなバカな、と一人ボケ一人ツッコミをしながら指先を見ようと顔を向け…──── カサカサカサ─────… 「─────…っ…!!?」 …な、何か黒い物体がいる。 ゆらゆら揺れる触角みたいなものも見え隠れし、ギラギラした視線も感じる。 嫌な予感に直視出来ない。 (……………!!?これはもしかしてもしかすると…Gか?!ブリッグズに来てから見てないのに!) ブリッグズは通年肌寒い為、Gを見かける事は滅多に(いや、ほぼ)無い。 指先の何かはまだ俺の指先でもぞもぞしている。 (ちょっ、待…!!俺メンテ室にお菓子なんか持って入ってないんだけど!) 目を反らしたまま冷や汗がどんどん出てくる。 (お、落ち着け…俺!相手は一匹だ!右手を振ったと同時にすぐそこの新聞丸めて叩けば任務完了だ!) 黒い物体のせいでテンションがおかしい。 息を整え、新聞の位置を把握し、タイミングを計る。 ふと物体が俺の指先から微かに離れた…────!! (いまだ……!!) 「大人しく潰されな……ッッ!!!」 ブンと指先を払い、脇の新聞を掴むと片手で丸め、照準を合わせ降り下ろした─────…!! バシンッ…─────!!! 「な、何ッ…?!」 確実に仕留めたかと思われた瞬間、黒い物体が台の上を左手にゴロゴロと転がり俺の渾身の一撃をかわした。 「チッ…!素早い奴め…っ!!」 一先ず下がり距離を取る。 新聞を握り直し、もう一度黒い物体に狙いを定め降り下ろした…───!! 「これで終わりだあぁッッ──…!!!」 「ニ、ニールッッ!!! 俺だ!バッカニアだッ!!!!」 「…………………へ?」 黒い物体が台の上で飛び跳ね叫んだ。 黒い物体。 よくよくよ〜く見ると、その物体の黒光りの体色は黒色ファー付きコートであり、黒い触角に見えたのは黒髪のモヒカンと長いみつあみであり、ギラギラした視線は見慣れ過ぎた男の目付きの悪い目………だった。 「た、 た…… ───…大尉いぃ〜ッ?!!」 俺の悲痛な叫び声が医務室はおろか、通路の向こうまで響き渡った。 「─────……で?朝起きてみると躯が縮んでいた…と」 「……………そうだ」 場所を医務室に移し、机の上に大尉を乗せるとその場にちょこんと正座をした。縮んだ…というか3等身のミニサイズになった、という言い方の方がぴったりだ。 「…アイリスちゃんは?」 「昨日は、………一緒に寝ていないからまだ知らない筈だ…」 うーん…と唸ると俺はひとまず淹れ立てのコーヒーに口を付けた。 「ん………?」 ふと注がれる視線。視線の先には正座をした大尉が物欲しげにこっちを見ていた。 「た、大尉………欲しいんですか?」 凝視していた事を恥ずかしく思ったのか、あたふたすると頬を染めた大尉。 「す、すまん…。腹が減ってな……」 (ああ………) 確かに大尉はよく食べる。大食いとまではいかないが躯がでかい分、必要なエネルギーも多いらしい。 「ちょっと待っててくださいよ」 俺は席を立つと食器棚の前に立った。確かケイトがコーヒーに入れるミルクを小さなポットに入れていた事を思い出した。 「はい、大尉。熱いから気をつけてくださいね」 「ああ、すまない」 ついでに棚にあったアールグレイ風味のクッキーを小さめに割ってお皿に乗せてみた。 「これアイリスちゃんお手製です。美味いですよ」 「ああ……」 机に俯せて眺めていると嬉しそうにアイリスちゃんクッキーを食べている大尉。 暫く経ってティッシュを渡すと、口と手を拭いていた。(……意外とマメなんだな) 「で、どうします?アイリスちゃん呼びましょうか?」 「………むぅ…いや、まずは元に戻れる方法を探してみる」 大尉がいないと俺の仕事も暇なのだ。 「じゃあまず原因を探しに大尉の部屋にでもいきますか」 「…そうだな」 腕組をする大尉のファーを摘まみ上げ俺の白衣の胸ポッケに入れた。 「二、ニールッ!ファーを持つのは苦しいから止めろ!」 「はいはーい」 ポケットから顔を出す大尉にニヤリと笑うと、残りのコーヒーを飲み干し、メンテ室入り口に“お出かけ中”の札を下げて医務室を後にした。 fin → 戻 1/3page |