「……っいた」 医務室のストーブの傍。 隣で縫い物をしていたアイリスから小さな声が上がった。 「アイリス、大丈夫か」 「あ、うん、平気。ちょっと針が刺さっただけだから」 機械鎧にしているとシャツの袖口が擦れてほつれやすくなる。そのほつれを見つけては時々アイリスが直してくれていた。 笑顔を見せるが、俺のシャツを縫っていた事もあり傷の具合が気になる。 「見せてみろ」 「え…大丈夫だって」 アイリスの手首をとる。細く白い指先に鮮やかな紅い血の色が映える。小さな玉になった血液。 いつもちょっとした事に気付いては俺を助けてくれているアイリス。アイリスの優しさに甘えてばかりで、どうしたらこの愛しさを返せるだろう。 そんな事を考えながら鮮血の玉を眺めていた。気付くと手首を握ったまま、指先を口に含んでいた。 「ゃっ……!?バッカニア…!」 チュウ…と指を吸いながら、アイリスの指先を舌でなぞり血の玉を舐め取った。 「傷は舐めれば早く治るだろう」 「っん…!バッカニア、ダメ…っ…私の血は……」 舌の動きに感じながらも、ハッとして口を閉じたアイリス。頬を赤く染めて、視線を反らす。 「お前の血がどうした?」 口から離し、俺の唾液で濡れた指先をねっとりと舐め上げる。血の玉は消え、針の当たったところももう何処か分からない。 「んっ……バイ菌とかいるかもしれないし…、と、とにかく傷口舐めるの禁止!!」 「……お前が嫌がるなら止めよう。だが、気をつけろよ」 「うん…ありがとう、バッカニア」 そっと掴んだ手首を離すと、今度はアイリスが俺の手を取り指先に口付けた。 「アイリス……」 「バッカニアこそ、気をつけてね。私は…これくらいの事しか出来ないから」 「そんな事はない…俺はお前に助けられてばかりだ」 「バッカニア…」 互いの存在に助けられているのかもしれない。どちらか片方が一方的にではなく… アイリスの瞳が俺を真っ直ぐに見つめる。 「アイリス……」 その瞳と見つめ合う内に、無意識に手がアイリスの腰に伸びていく――――… 「あの〜………」 横で突如響いた男の声。 (ハッ…い、いかん……!) うっかりアイリスの腰を抱き寄せようとしていたが… そうだった、ここは… 「お二人の仲がいいのは十〜っ分、分かりましたから…」 ずっと隣にいたであろう専属技師がスパナ片手にどす黒いオーラを纏っていた。こうなってはもう手遅れだ。 「ニ、ニール…落ち着け!」 「イチャコラするなら自分達の部屋に行ってしてくださいっ!!!」 我慢の限界に達した技師によって、俺とアイリスは医務室を追い出されてしまったのだった。 fin 戻 1/1page |