「きゃああぁっ!ヘンシェルさん可愛いっ!」 「へぇ〜、確かになかなか可愛いじゃない」 「い、いえ、俺のは…それ程でも…」 アイリスの黄色い声が聞こえたかと思い医務室をそっと覗くとヘンシェルが女性陣に囲まれ頬を染めて照れている。アイリスに至っては瞳をキラキラと輝かせ羨望といった眼差しでヘンシェルを見つめていた。 「(………面白くない…)」 自分の恋人が自分以外の異性に熱のこもった視線を向けている。それが楽しいわけがない。 「大〜尉、入らないんですか?」 ドアの手前で腕を組んだまま一人唸っていると名前を呼ばれた。振り返るとくわえポッキーで白衣のポケットに手を突っ込んだニールがいた。 「…お前か…」 「入らないなら俺先に入りますよ」 と、医務室の入り口を勢いよく開け軽やかに入っていくかと思いきや、 「アイリスっちゃ〜ん。大尉がかまって貰えないから入り口でいじけてますよ〜」 「(な…ッ!!)」 ニールの暢気な言葉にアイリスをはじめ医務室にいた者達が一斉に振り返った。 「ち、違う!俺は別に…!」 慌てふためく俺を見てアイリスはにこりと笑うと手を引いて部屋の中へ導いた。 「ね、これヘンシェルさんの手作りなんだって。可愛いでしょ」 くるりと俺の方に振り返ったアイリスの手には手の平サイズのクマのぬいぐるみがいた。可愛いと言っていたのはこの事だったのか。 「ほんと驚きよね。この厳つい男が実は裁縫得意だなんて」 「それは言わないでくださいよ…」 女医もまじまじとぬいぐるみを見ながら細部まで完璧だわ、と感心している。 そう言えばヘンシェルには歳の離れた妹がいると聞いていた。体の弱い母親の代わりに家事全般は自分がしていたと言っていたからその過程で裁縫もお手のもの、になったのだろう。 「アイリスちゃんもこういうの好きなんだね」 「…ぬいぐるみっていうより…クマをモチーフにしたものが好きみたい」 クマを持ったままにこにこしているアイリスを見てふーん、クマねぇ…と呟いたニールが顎髭を撫でた。半分閉じた目が俺の方に向いているのは何か企んでいるに違いない。 「良かったらどうぞ。部屋にでも飾ってください」 「え、いいの…?」 「ええ、気分転換に久しぶりに作ってみただけですから」 「ありがとう、ヘンシェルさん!今度紅茶のクッキー焼きますね」 クマのぬいぐるみを介して意気投合している二人に俺は突っ立ったまま悶々としていると、クイクイとみつ編みを後ろから引っ張られた。振り向くとメンテ室の水色のカーテンの向こうからニールがそっと手招きをする。 「(なんだ…?)」 「(ヘンシェルさんにまで妬いちゃてどうしようもない独占欲の塊の大尉に俺からのプレゼントでーすっ)」 「(こ、これは…!!)」 その夜。 「今日の勤務も終〜わり。もうバッカニア、部屋に戻ってるかな」 るんるんと鼻歌混じりに俺の部屋のドアを開けたアイリス。 「ただいま〜バッカニ…」 「お帰りだクマ。」 ベッドの上には2mを超す大きな着ぐるみのクマが、いた。 (きゃああぁぁッ!!!) (アイリス…ッ?!俺だ!) (おい!今アイリスちゃんの悲鳴が聞こえたぞ!) (なんだ?!侵入者か?!) fin 戻 1/1page |