「喉が……痛い」 「え……」 朝目覚めたバッカニアの第一声。ここ何年か風邪なんて引いたことなかったのに…。いつもよりゆっくりとした動きでベッドを抜け出ると洗面台に行き、ガラガラとうがいを始めた。 「バッカニア……大丈夫?」 後ろから声をかけるとうがいをして寝ていれば治る…と呟く。幸い今日は一日、明日も午前中は休みだ。 「熱は……?」 そう言って背伸びをして彼の額に触れる。 「!」 「微熱だ…これくらい」 思ったよりもかなり、熱い。38度は軽く超えているかもしれない。普段通り振る舞っているようだったが、よく見ると頬も赤く目もとろんとしている。 「び、微熱じゃない…じゃない!」 「そんなに慌てるな…お前も心配性だ…な」 動揺している私に苦笑を溢したかと思ったら、彼の巨体がグラリと傾ぎ私の方へ倒れてきた。 「バッカニア…!」 「…大丈夫だ…」 「大丈夫じゃない!早くベッドへ…」 熱い彼の躯を支えながらどうにかベッドまで辿り着いた。寒い、と呟いた彼の躯に多めに毛布をかけ額に濡らしたタオルを当てる。 「すまない…アイリス。情けないな…こんな時期に風邪とは…。気合いが足りんと少将に殺される」 「そんなことないよ…。きっと昨日のことが堪えたのよ」 昨日、バッカニアと数人の部下は山岳警備に出た折に一人の少年を助けた。 ブリッグズ高原は雪解けが始まったとはいえ、まだ雪に覆われたところも多い。薄い氷の張った川の上にも雪は残り、少年の連れて来ていた羊の一匹が地面と間違え氷を踏み抜いた。流されていく羊を助ける為に少年も川に飛び込もうとしたところを警備兵達が止め、代わりに彼が羊を助ける為に冷たい水の中に飛び込んだのだ。 「羊も無事だったし、貴方も無事でよかった…けど、この時期普通の人なら川の冷たさに心臓麻痺でも起こしてたところよ…!」 「むぅ……無茶はもうしない…。だからそんな泣きそうな顔をするな…」 お前の泣き顔には弱いんだ……、とそっと頬を撫でてくれる。その手の平はやっぱり熱で熱かった。 話しているとバッカニアのお腹がぐぅと鳴り、彼は恥ずかしそうに顔を反らした。 「………アイリス」 「………食堂に行ってお粥かおじや作って来るね」 「あぁ、頼む…」 そう言って傍を離れかけると手首を熱い手の平が掴んだ。後ろを振り返ると彼は自分でも驚いた様な顔で私を見ていた。 「なぁに?」 「……あ、いや…何でもない」 気恥ずかしくなったのか掴んだ手をぱっと離して布団に潜り込む。 「………何でも…ない」 「そう…?」 再び部屋の入り口へ行こうとすると、何となく後ろ髪を引かれる様な視線を感じる。 気になって仕方ないのでベッドまで戻ると、布団の端から覗く彼の額に軽く口付けた。 「すぐ戻って来るから、大人しく寝ててね……甘えん坊さん」 「………………」 これは食事も食べさせてあげないといけないかもしれない。 けれど数年に一度くらいのことなので、お仕事お疲れ様の気持ちも込めて、目一杯甘やかせてやろうと食堂に向かう傍ら考えていたのだった。 fin (バッカニア、あーん) (…―――プイ) (…?食べないの?) (……………いのなら…べん) (え?) (……ふうふうしてくれないのなら食べん…) (………) 数年に一度のイベント(?)を満喫するバッカニアであった。 おまけ (ほーほっほっほ!気合いの足りないクマ大尉は何処かしら! 対クマ用超特大注射を持ってきてあげたわよ〜!) (……ひぃぃい!!アイリスッ…助け…) (ケイト!患者の部屋ではお静かに!!) 大尉の病院嫌いの所以である。 戻 1/1page |