「バッカニアの死体が見つからない…だと」 “お父様”との激戦の後。怪我人の搬送や生存者の救助、瓦礫の撤去の指示が飛び交う中、幕舎にいたアームストロング少将が部下からの耳打ちの報告に眉を潜めた。報告しにきた者もまだ信じられないと言った表情だ。 「……救助を続けろ…あのでかい図体が勝手に消え失せるなど、ある筈がない…」 バッカニアと同じくブラッドレイの凶刃に倒れたシンの隠密の老人の亡き骸はシンの皇子と共に国に帰った。 もしかしたらまた息を吹き返し、誰か近くにいた者達が早々に治療の為に場所を変えたのかもしれない…とあまり現実味のない考えが脳裏を掠めた。 (いや、確かに死んだと報告が入った…) 傷の男(スカー)はまだ息があったので密かに自らの屋敷に運ばせ治療させていた。バッカニア達に関しては生存者救助を優先しろと言ってあるので皆他にかかっていて彼を移動したという報告も受けてはいない。 バッカニアは死んだ…───── 事実を理解しながらもやはり感情の上では側近として常に共にあった彼の生還を望んでしまう。そして彼だけでなく、一人でも多くの生存者がいて欲しいと願う。 ふと、他の幕舎にいるであろう憎々しい黒髪の若者を思い出し、彼の仕業では…といぶかしむ。それならそれで有り難いと思った。彼女にとっては気にくわない人物だが、部下思いであることは知っている。もしもバッカニアが彼の元で治療を受けているのであったらしばらく経った頃に報告なり本人がのっそりと砦に帰ってくる筈だ。 「…帰ってくるなら勝手に帰ってこい」 願いの様な呟きを口にした自分自身に苦笑しつつ、まだ終わりそうにない作業の号令の為、肩に掛けただけの上着を翻し幕舎を出た。 → 戻 1/4page |