「久しいな、元バッカニア」 「…………は…?」 セントラルの高い医療技術と懸命な看病によって奇跡的に生還した俺は、今再びブリッグズの司令部を訪れていた。 そして、金髪碧眼の美麗な上司──オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将──を前に間抜けな声を出していた。 「閣下、“元”バッカニア……とは、一体何があったのでありますか。私は元も前もなく、この世に生を受けた時分よりバッカニアですが…」 幾分目に力が入っていないやる気なしモードの少将の様子に若干の嫌な予感を感じ、冷や汗をかきながら、その先に続く言葉を待った。 「お前の名前をくれてやった」 「……………」 さらりと言う少将の問題発言。 言葉の意味が飲み込めず、一瞬、思考がフリーズした。 「く、くれてやったと言いますと……?」 「お前の名前を、だ」 「だ、誰に…」 「…………傷の男(スカー)」 「何ですとーっっ?!!」 暫くの沈黙の後、俺の悲痛な叫びがブリッグズ中に響き渡ったのだった。 「…落ち着け、元バッカニア」 「元バッカニアではありません!今バッカニアです!これが落ち着いていられますか!生死の境をさ迷って、リハビリに明け暮れ、漸く古巣に戻って来たかと思ったら既に除隊扱いですか、少将!」 俺は目の前にある机に勢いよく両手をついて少将に喰ってかかった。が、当の本人は飄々とした表情で机に山と積まれた書類に一つ一つ目を通している。 「名前はなく好きに呼べと言っていたのでな。思い出したのがお前の名前だった」 「…名前を思い出していただいて光栄ですが…」 「ついでに二階級特進のお前の階級もくれてやった」 「……………」 「そもそもお前はマスタングの奴に囲われて極秘に治療していたのだろう。こちらはお前の遺体がないと探しまくっていたのだぞ」 「ぬぅ……」 それはマスタング大佐の判断だったらしく、意識のなかった自分にはどうしようも出来なかったのだが、名前の一つや二つくれてやれ!と凄味を効かせて渇を入れられては………仕方がない。 「…という訳だ。俺に似合う名前を何か付けてくれないか」 「……………えぇ?!」 ノースシティーのアパートに戻った俺は先に戻ってきていた彼女に打ち明けると目を丸くして驚かれてしまったのだった。 「────…という悪夢を見た。」 「……ゆ、夢でよかったね、バッカニア」 「むう。正夢になりそうで怖いな」 ───そう、セントラルの激戦後生還し、ノースシティの軍病院でリハビリに明け暮れた俺は来週ようやく職場に復帰する。毎日のように俺を励ましに訪れるアイリスが小さくガッツポーズをする。 「だ、大丈夫よ、きっと!ファイト、バッカニア!」 「もし正夢なら俺に似合う名前をつけてくれよ」 困り顔のアイリスの細い手首を取るとその指先に軽く口付ける。互いの指に鈍く光る指輪。数日前ニール達に盛大に冷やかされながらもようやく書類に署名して晴れて夫婦になった。 「うーん…、私あんまり名前のセンスとかないからなぁ」 とぼやくアイリスの様子が可笑しくて冗談だ、と返すがふとある事に思い至り、またアイリスを困惑させた俺だった。 「俺達の子どもには良い名前を付けてくれよ」 「!!!」 fin. 戻 1/1page |