「あれ、大尉は?」 医務室に顔を出したニールは、午後から見かけない大柄の男の居場所を女医に尋ねた。 「さっきそわそわしながら出てったわよ」 コーヒーを飲みながら振り返るケイトに、思い当たることがあったニールは納得した。 「……ああ、そう言えば今日って」 (……花も、持った。髪も…整えた。髭も昨日コンディショナーを使って艶々だ…。顔はー……) ここはノースシティ。先程から30分以上は行き交う人々と、煉瓦造りの店のショーウィンドウに映る自分の姿を代わる代わる見てはそわそわしている男が一人。大きな躯はブリッグズのクマを彷彿とさせる。モヒカンに長いみつあみという奇抜な髪型の強面ではあるが、みつあみの先には桃色のリボンが付いていて何とも微笑ましい。 (厳つい顔なら笑顔でいるまでだ!) 花束を手にしたバッカニアは、まだ名も知らぬ女性を待っていた。 先日、ヘンシェルをはじめとする砦の部下達数名と息抜きがてらノースシティに来ていた時のことである────… 「ちょっ…!止めてくださいっ、私今仕事中なんです!」 「堅いこと言うなよ。俺達お客にご奉仕するのが仕事だろ」 いつも寄っているバーにたまたま顔を出した時、見馴れない顔のウェイトレスが長髪の男に執拗に絡まれていた。周りの客も白い目で見ていたのでその内収まるだろうと思っていたが、酔った男の行為はだんだんエスカレートしていき、見るに見かねたバッカニアの大きな手が男の首根っこを掴んだ。仔猫を掴む様にヒョイと掴まれ男は恥ずかしさと怒りでギロリと後ろを振り返った。 「テメエ…何しやがる!…って、ヒィ!!」 「そこの娘の代わりに俺達ブリッグズ兵が酌をしてやるぞ」 一瞬で青ざめた男の視線の先にはバッカニアをはじめ強面の男達の微かに青筋の立った爽やかな笑顔があった。 「まだその娘に付きまとう気か?!」 首根っこを掴んだまま、突然バッカニアが腹の底から出した声に男はすくみ上がった。 「いえ!と、と、とんでもないっ!!二度と!二度と付きまといません!!誓って、神に誓って!」 それを聞いたバッカニアはニヤリと笑い「確かに聞いたぞ」と男に言うとパッと手を離した。男は尻餅を付きながら慌ててバーを一目散に逃げていった。 「さすがですね、大尉」 「……イザコザは苦手だ」 そういうとテーブルに置いてあったグラスを軽くあおり始めた。バッカニアの後ろでは彼の大きな背中を羨望の眼差しで見つめる女の姿があった。 「で?その娘にお礼を言われたと同時に次に会う約束まで取り付けたってわけ?」 「らしいよ〜」 ケイトの淹れた薄口のコーヒーを飲みながらニールは陽気な口調で返した。 「大尉には一生に一度くらいのチャンスなんじゃない?この砦にいたって女っ気ないからね〜」 「それで、どんな娘なの?」 「さぁ?俺が聞いたのはそこまで」 ふーん、つまんないわね、と呟くと今日の凱旋報告を期待するケイトであった。 煉瓦造りの通りの向こうから明るい笑顔が駆け寄ってくる。 「バッカニアさん、遅くなってごめんなさい!」 「い、いや…俺も今来たところだ」 ニールに教えられた通り、今来たことをアピールしつつ、背中に隠していた花束を意を決して彼女の前に差し出した。 「…これ…」 「プ…プレゼント…です」 「私の、ために……?」 「……はい」 「…ありがとう…、バッカニアさん!」 花束を受け取る彼女の優しい笑顔に、かなり緊張していたバッカニアの気持ちも解れ出したのだった。 fin 戻 1/1page |