カシャッ!
プイッ…

 カシャッ!
プイッ…


「アイリスちゃん……もう諦めたら…?」

 さっきからバッカニアの周りでシャッターを切り続ける私にニールが声をかけた。が、まだ諦めるつもりはない。気付けばコーヒー片手に雑誌を読んでいるバッカニアがまたくるりとこちらに向き直った。

「もうバッカニア〜、シャッター切る瞬間に背中向けないでよ。撮った写真全〜部、後ろ向いてるバッカニアと横から入ってピースしてるニールさんばかりじゃない…」

 ニール特製カメラにバッカニアの姿を収めようと昼から粘っていたが、未だ彼が正面を向いた写真は撮れていない。

「…撮られるのは苦手だ」
「なんで…」
「は…恥ずかしい………」
「コーヒー飲みながら雑誌読んでる自然体でいいんだけど…」
「……それも恥ずかしい。それよりお前はどうしてそんなに俺を撮りたいんだ」

 ブリッグズは自然が美しいんだ、そっちの方がいい被写体になるだろう?と呟いた。構えていたカメラをおろすと、バッカニアのかっこいい姿を形に残しておきたいの、と言うと頬を染めてまたくるりと背中を向けてしまった。


 むぅ…じゃあ寝顔を撮ってやるー!と、バッカニアが寝入ったのを見計らってベッドを抜け出しカメラを構えた。ベッドの上で大の字でぐうぐうと気持ち良さそうに寝息を発てている。

「よーし、寝てる寝てる…」
 起こさない様にそうっと彼に近付く。
「もらった!」
と、シャッターを切った瞬間、

ごろり………

「え……」

 あろうことか私のいる方とは反対側へ寝返りを打った為に、カメラに写ったのは彼の大きな背中と解かれたみつあみであった。

「…も、もう一回!」

 気を取り直してベッドの反対側へ回り再びシャッターを切った瞬間、

ごろろん………

「〜〜っ!!ちょっと〜」

 小声で憤りながらどこまでも撮らせてくれないバッカニアに苦笑が零れてくる。


「いつまでやっているんだ…」
 ふと呆れた様に呟く声が響いた。
「あ……起きてたの」
「周りでごそごそ音がして寝ていられるか」

 ごめん、としゅんとして呟くと怒っているわけではない…と言って私を手招きした。カメラをサイドテーブルに置いて彼の傍に行く。
 うっすらと眠たそうな瞳を開けたバッカニアが私の手を優しく引いた。そのままベッドの上の彼の腕の中に閉じ込められる。深夜の2:00くらいだったので彼の鼓動と温もりにすぐに眠気が襲ってきた。

「…バッカニアが…撮りたいの……」
「緊張して顔が引きつるから苦手なんだが……」
「むぅ……でも撮りたいー…」

 うとうとしつつ訴えると、私の髪を撫でながらバッカニアが呟く。

「レンズ越しに俺を見るより、お前の生の瞳で俺を見て欲しいんだがな」
「……バッカニア…」

 バッカニアの言い分はよく分かる。実際に自分の目で見て耳で熱心に聞いたことは何かに録っていなくとも、その時の感動や興奮は心に長く残っている。自分の記憶を他に任せてしまうことで自分の記憶には残りづらくなるのだろう。

「だが、お前と一緒なら記念に撮られてやってもいい」
「え、本当?」

 顔を上げた私に一回だけだぞ、と念を押す。

「うん!じゃあ笑わせてあげるね」
「やめろ…余計引きつる…」

 明日には最強の助っ人がやって来る筈だが、案外いなくても大丈夫かもしれない…と思いながら眠りについたのだった。







翌日。

「な、なんだ…それは……」

 頬の筋肉を緩め破顔したいのを必死に抑えながら、眉間に皺を寄せて口をへの字に結びいつものポーカーフェイスを保とうとしていたバッカニア。

「何って……猫ちゃんよ」


 私の手の中にはまだ生まれて間もない柔らかな毛に覆われ大きく潤んだ瞳を彼に向けている仔猫がいた。

「ね、猫は分かる!どうしてこんなところに猫が……」
「にゃあ!」

 仔猫が鳴いた途端、バッカニアのポーカーフェイスがへにゃり…と崩れた。
 普段から彼と仕事をしている時間の多いニールやケイトも、持っていたコーヒーカップを床に取り落としそうになるくらいに、幸せそうに頬の筋肉を緩めたのだ。

(お、反応してる反応してる)

 いつものしかめ面が崩れたことが嬉しくて、仔猫のふさふさの小さな手で「ねこパーンチ」を繰り返すと恍惚としたバッカニアがよろめく。

「た、大尉………」

 彼の変わり様に、目を見開いたままニールが固まっている中、ケイトがニールの脇を小突いた。見れば私が事前に渡していたカメラがある。

「了解っ」

 仔猫を交えて2人でいるところをフィルムに収めてもらった。ニールに撮られていることに気付いている筈だが、仔猫パワーはそれをあっさりと凌駕していた。


「…アルフレドに気を取られて撮られるとは…」

 出来上がった写真に写ったバッカニアはいつもより3割増の笑顔であった。むぅ…と唸りながらも仔猫を両手でしっかりと抱いたまま顎の辺りをねこパンチさせている。

「アルフレドって……」
「猫の名前だ」

 こんなに仔猫好きとは思っていなかったので少々面食らってしまったが、実はこの仔猫、ノースシティーの宿屋さんが2、3日留守にする間預かっているだけなのだ。なのでもう明日でさよならである。

「アルフレドオォ…ッ!!」
「みゃああぁ!!」
「…あの宿屋さんにいるから会いに行こうね、バッカニア……」




おしまい。
   
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