ファーと手袋


「バッカニア…」
「なんだ」

 俺のコートの襟を整えながら首を傾げるアイリスが呟いた。

「もうかなり暖かくなったよ…?暑いならコートのフサフサ取ろっか?」
「む………」

 毎年春の半ばを過ぎる頃、必ず何人かにつっこまれる首回りのフサフサ。ブリッグズ内でも周りを見渡せば俺を除くと皆ファーを外し涼しげな襟元に変わっていた。

「……まだいい」

 取られるのではないかと心配した俺は襟を掴みフサフサを口元まで引っ張り上げた。傍から見ればお気に入りの服を取られまいと母親を目で威嚇する子どもだ。彼女は大きく開いた眼で驚いた様に瞬きをするとくすくすと笑い出した。

「…仕方ないだろう。ブリッグズに長くいてここの寒さにある程度は慣れたが、俺は元々東の…もっと気候が温暖なところの出身なんだ」

 随分暖かくなったとはいえ、吹き抜ける風はまだ冷たい。ついでに自分の髪型は北風が肌に直接ぶつかってくる。寒い。だがこの髪型がいい。
 人間、首回りを温めると案外そこまで寒さを感じないのだ。

「まぁ、そろそろ手袋くらいは外してもいいが…」

 手袋といって、ふと左手の薬指に付けているものを思い出す。付けてはいたいが何分、恥ずかしい。
 手袋の下の指輪を見つめたまま悶々としていると、中指の指先から生地を引っ張られ手袋を脱がされた。銀が鈍く光を放つ揃いの手作りの指輪。

「ふふ。付けときたいけど恥ずかしいって顔してる」
「…当たりだ」

 気恥ずかしくなり顔を反らせているとシャラリと鎖の音が響いた。

「なんだ、それは」
「もちろん、見た通りのネックレス!これに指輪を通して首からかけてたら恥ずかしくないでしょ?」

 彼女のアイディアに成る程、と思い早速指輪を鎖に通した。頭を低くして後ろの留め具を留めてもらう。体を動かした時に邪魔にならない様にシャツの中に押し込むとほっとしてまた手袋をはめた。

「あれ…外さないの?」
「もっと暖かくなったらな」

 これで夏の支度が出来たと妙に嬉しくなった。






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