隣のあの子は昔から、女の子の扱い方にかけてもう天下一品。ファンクラブなんかもあって、頭もよくて運動もできるから、みんなやたらと(遠くからではあるけれど)あの子を好いた。そんなあの子はわたしのことを特別だというけれど、いささか信じがたいのです。だって、今日だって、チラホラと雪が降ったから、暗い夜の帰り道に雪が降ったから、なんだかすごく切なくなって電話をしたのに、あの子はまた他の誰かさんと話し中。つらくてつらくて涙がでた。白い息も生ぬるい涙も、0度に限りなく近い気温のせいで凍って割れてしまいそうだ。全身が凍って、割れてしまいそうだ。



こんな弱いわたしが一番きらいなの。(特別だからって、別に付き合ってるわけでもないから)あの子は悪くないし、あの子の電話の相手だって他の人からみたら何も悪くない。分散できないわたしがいけないの。



どうしようもない片思いなのに、気づけばこんなにヘビーなの。



わたしは重たいのがいちばんに嫌で、それで、いままでだって空を飛べるくらいふわりふわりと生きてきた。だけどこの重たい重たい心臓のせいで、今はもう一週間のうちでも累計、二時間くらいしか飛んでいけない。こまった。そろそろノイローゼになりそうよ。重力にことごとく負けている。





取り合えずわたしは、カラシ色のミトンで涙を拭いて立ち上がったの。もう知らないわ、家に帰ろう。途中でおつむの弱そうな男の子が声をかけてきたけれど、わたしはやっぱり聡明なあの子と比べてしまって、もう夢は見れない。ああわたしはこんなにも視野が狭くなった。そして一途になってしまった!


「ばか、どこにいたの」


曇った視界を振り払った時に、突然うしろから声をかけられて耳当てを落っことしそうになった。


「探したのに、いないんだもん。今日は一緒に帰ろうってずっと君がいってたんじゃん」


矢継ぎ早に続く背後の声。それと同時にやわらかな引力。わたしのピーコートの背中を、ツンと引っ張るのはあの子の癖だ。


「…そんな、だって、そもそも臨也が電話にでないんじゃない」

「君がどこにいるか聞いてたんだよ。君のともだちの、なんだっけ?あの、長いポニーテールの子。名前忘れたけど」

「じゃあなんで折り返してくれなかったのよお」

「帰ったって聞いたから、それなりに急いできたんだよ。悪い?」


鼻の先をぎゅっとつままれて、思わず変な声がでた。わたしはなんでこんな風に、いつも空回りしてしまうんでしょう。あなたはなんでこんなにも、いつも不器用にストレートなんでしょう。


「…そこまで悪くない」

「だめだなあ。…ありがとうございます、臨也様。でしょ?」

「うるさい」

「あはは、ほっぺたも鼻の頭も真っ赤だよ、ぶっさいく。まあいつものことだけど」

「うるさい」

「迷子にならないでよね、これもいつものことだけどさ」

「……はい」

「はいはい、よくできました」


そういって笑ってわたしの頭を撫でるあなたは、なんて頭のいい、ずるい人なんでしょう。

隣のあの子は困った子。わたしはもっと、うつてなし。