「ねぇ、世界の終わりってなんだと思う?」

「…急に変なことを聞くね」

彼は眼鏡を少し押し上げながら真っ白なベットに腰かけた。そして私の妙な質問を考える素振りを見せる。
この世で死んで生まれかわりがあるとしたらこの地球上でしかないのだろうか。広い宇宙の中でどこかに生命体があれば地球外のものになって生まれてくるのだろうか。しかしそう仮定してしまえば地球の寿命がつきたら当然世界は終わりをむかえるだろう。
そしてすべての生命体はそこでとだえてしまうのか?
宇宙は膨張して、広がっている。果てはなく広がっている説と、宇宙には果てがありそこにあたったら収縮していく説。この2つの説が一般的なのではないであろうかと私は思う。
まっしろい空間に真っ黒な宇宙が広がるイメージで、インクのシミがじわじわと広がっていく。だけどいくら仮説を立てても自分の命がつきてもこの謎は解明できないままなのだろう。なぜなら宇宙は謎で溢れているからだ。

「世界が終わる、か。考えたこともなかったよ」

「私は最近になって考えるようになったの」

そう言いながらも彼を見つめた。そうすればクスリと笑いこう語る。

邪悪な心が残っている人は死んで、どこか別の低俗な星に生まれ変わると僕は思う。
神のような心をした人はこの地球に生き残って半永久的に生き続けるようになるんじゃないかな。死を迎えたら、魂はその肉体を離れ、親類縁者の誰かの肉体と一緒になる。つまり魂とは永久不滅で死ぬことはないんだ。
もし地球上の人類が絶滅したら、魂は他の惑星に移り、そこで生を得る。そう充分に語った後『あくまでも僕の考えだけどね』と付け足し息を吐いた。

「私とは違う考え方ね、興味深いわ」

「そうなのかい?てっきり同じような考えを持っていると思ってたよ」

「……あのね雨竜、私死ぬのが怖いの」

「…なぜ?」

「この子を産んだとき私は死を強く感じたわ。でも同時に生の喜びも感じたの。生の喜びと死の恐怖。こうやって自分は苦しんでいるのに頭はとても冷静であっけなく死ぬんだ、人は死と隣りあわせにいるんだ、そう強く感じてこの子を産んでから数週間は恐怖という感情に支配されてしまっていたの。『死』は恐怖。だからこそ世界が終わるのだっていつだか分からない。そんな思考が頭の中でぐるぐるとかき回されたわ」

「…君はそんなことを思っていたのか」

「でもね、あなたの考えを聞いて少し安心したの」

そう言うと少し驚いたような顔をして私を見つめた。ああ…そんな夫の顔も愛しく感じてしまう。あなたと子供が生きているから今私は生きているの。

近親者の近くに一緒にいる、という考えがとても嬉しかった。死をそこまでで終わりだと区切らないで、まだ共にいるんだと思えたら世界の終わりなんて深く考えなくなったの。だってそれは世界が終わりを迎えても、死を迎えても、あなたの近くでまた生きられるってことでしょう?だったら何も怖くないわ。

「ありがとう、雨竜」

「いや、僕は特になにもしていないさ」

きっと世界が終わってしまってもそこには絶望だけではなくて新しい光があるんだろう。世界も地球も生命のある生き物がいなければなんの意味も持たない。