無意識に口がアイスを欲するそんな時期、普通の学校の体育のカリキュラムにはプールと記されているだろう。クーラーどころか扇風機も設置されていない灼熱地獄と化したこの校内で過ごす身としてそれはオアシスに限りなく近いもので、個人的に月に一度はやってくる例の日と被らないことを切に祈りながら今か今かと待ち侘びている夏の風物詩とでも言えよう。



「あれ、もしかして栄口も見学?」
「それが水着忘れちゃってさー」
「わたしも!ついてないよー」



今は違えど去年まで三年間ずっと同じクラスの栄口の隣に腰を下ろす。珍しいね、あんなにプールの授業楽しみにしてたのに。そう言う栄口こそ滅多に忘れ物とかしないのに、と返したら寝坊したんだと少し眉毛を下げて笑った。それにしても私服姿って見慣れないなー…なんて某然と考えていたところに突然水飛沫に襲われた。プールサイドから少し離れたベンチにまでプールの水が飛んでくるワケがない。じゃあコレは一体…?




「…どーゆーことかな田島?」
「だって見学だけじゃあちーだろ?」
「あのなァ…」
「授業終わるくらいには乾くぜゲンミツに!」



どうやら田島の独断犯によるお情けだったらしい。ホースに水を送っていた蛇口を閉めて田島を引きずり戻す泉にワリィなと言われちゃ仕方が無い。田島のお守りは大変だろうなあ。隣の栄口も相変わらず苦笑い、かと思いきや頬が少しだけ色を帯びたまま立ち尽くしているではないか。「え、もしかして寒い?」と尋ねた瞬間、突然Tシャツを脱ぎ始めたから視線のやり場に困ってしまう。



「…濡れてて気持ち悪いけどコレ着てくれる?」
「へっちょ、いいいいきなりなんで?!」
「えっとその…ゴメン、透けてる」
「……あ」



今更ながら随分見当違いの質問をしていたようで、こちらに視線を向けずにTシャツを渡す栄口の耳が赤い。少し大きめのソレは自分のものよりだいぶ濡れていて、気がつかなかったけど栄口が前で庇ってくれたんだ…何それちょっとときめいたじゃん。もう一度栄口の隣に座ってお礼を言おうと思って振り向いたら綺麗に引き締まった上半身に妙に恥ずかしくなってやめてしまった。もう中学生でもあるまいし…とは思いつつも余りにも心臓が煩くて、やっぱりしばらく上手く話せそうにない。少しでも落ち着こうと小さく深呼吸したら自分から栄口の匂いがしてさっき以上にドキドキしたなんて、自分でも甘酸っぱくて誰にも言えないよ。


その後、上から濡れたTシャツを着てて自分の服まで乾くこともなく栄口のTシャツを借りたままになった。一日中ドキドキしっぱなしで疲れてたのにその日の夜は全然眠れなくって、どうやってTシャツ返そうかなんて考えてたらどこかわくわくしてる自分に気がついてしまった。