ひんやりと冷たいそれに、ざくりと足を踏み入れた。今日の朝目が覚めると、外は粉砂糖が一面に降り掛かったような真っ白だけの世界になっていた。隙間から零れる木々の枝や、ナナカマドの実の赤色がその白をより美しく彩っていた。そういえば、昨日の夜からとても冷えていたな。すべてはこの雪のためだったのだろうか。まだ誰も足を踏み入れていなかったそこに、私の足跡だけがくっきりと形を残した。それになんだか優越感を抱いて、ふふふ、と笑みを零す。



「まだ、文次郎は寝てるのね」



部屋の方をくるりと振り返ってそう呟いた。部屋の真ん中にある長机に突っ伏して眠っている文次郎は、子供らしくてなんだか可愛いと思った。昨日は予算会議の予算案を文次郎や後輩達と一緒に夜遅くまで練っていたため、まだまだ欠伸が何回も出てしまうくらい眠たい。下級生たちはさすがに朝まで徹夜というわけにはいかないという意見を私から文次郎に言って、下級生たちがちゃんと長屋に帰って眠ることを渋々許可した文次郎。そんな彼と、この部屋に二人だ。朝方まで二人で頑張って、ようやく完成した予算案の台帳をトントン、と綺麗に並べて重ねた。この雪だと小平太がはしゃぐだろうなあ、文次郎も起きたら鍛錬とかすぐに言い出すんだろうなあ。その光景が目に浮かんで、またもくすりと笑みを零す。すると、もぞりと畳を擦るような音がした。



「文次郎、おはよう」
「……、ああ」
「雪降ってるよ。私もう足跡つけちゃった。一番乗り!」
「雪が降ったくらいではしゃぐな、餓鬼かお前は」
「ひどいなあ」



そう言った瞬間、身体がぶるりと震えて、くしゃみがひとつ飛び出した。鼻水をずびずびと啜る。少しの間縁側に出ていただけなのに、すっかり冷えてしまった。身体を包む半纏をもっと身体に密着させるように着込み、部屋の中に入る。部屋は私が起きた時から火鉢を焚き始めていたので、もう今ではすっかり暖かくなっていた。火鉢に縋るように冷たくなった手をかざす。あたたかい。



「…今日は三木ヱ門たちを誘って餅でも焼いて食うか」
「あら、どうしたの文次郎、珍しいね」
「何がだ」
「いつもなら『雪でも鍛錬を怠るな!ギンギーン!』とか言って雪の中に飛び出して行きそうなのに」
「……今日は餅の気分なんだよ」
「ふふ、じゃあ後で4人を呼びに行かないとね。きっと喜ぶよ」
「…そうだな」



餅を食べるなんてあの4人が聞いたらきっと喜ぶだろうな。三木ヱ門なんかは「餅なんて、」って強がるかな。左門と団蔵と佐吉は素直に喜びそう。そんな可愛い後輩たちを想像しながら、隣に座る文次郎の肩にそうっと身を委ねた。