ゆるやかに死んでゆく季節を数えていた。わたしはちいさく「 淋しい 」と呟いて深海に沈む。ひんやり。水は冷たかった。

たまに夜を迎えるたびにずきずきと胸が傷むので、なかなか寝つけないでいる日がある。そんな夜は決まって彼に会いにゆくのだ。やさしい笑みをうかべて手を差し伸べてくれる彼に縋りついて、わたしはそうっと涙を流す。ずき、ずき。涙を流しても傷む理由は見つからない。


「おいで。魔法をかけてあげる」


わたしの手を握って、レギュラスが言った。
彼は魔法が使える。正確にはわたしもホグワーツに在学しているのだから、わたしだってそれなりに魔法が使えるのだけれど。でもレギュラスのいう魔法とは、ふだんわたしたちが授業で習っているようなものではなくて、きっと、それはレギュラスにしか使えない魔法のこと。レギュラスと、わたしだけが知っている秘密の魔法なのだ。


「きみが泣かなくてすむように。きみが苦しまなくていいように」

“ぼくが魔法をかけてあげるよ”


杖を振るかわりに、かるいリップ音と、わたしの額にやさしい温もり。呪文はたったひとつ、囁くような声で。



「おやすみなさい。よい夢を」


それはふたりだけの秘密の魔法。おやすみ。ひたひたと忍び寄る夜に手を振り、わたしは静かに目を閉じた。