苦いのも甘いのも全部君に | ナノ

苦いのも甘いのも全部君に



Bitter song for YOU side

 大切な人と手を繋いで温もりを求めあい、甘い言葉をささやきあって、幸せな時間を過ごす。それが恋≠セと思っていた。
 夜久月子は、高校二年生の秋に少し背伸びをしたような恋を彼と紡いだ。それは、甘いものでもあったけど、どちらかといえば苦さが多い、恋だった。
「……あれから四年、か」
月子は今、母校である星月学園に近い街に来ている。これから三ヶ月間の教育実習を受けるためである。予定より少し早めに到着したので、時間を持て余していた。
(本当によかったのかな……)
 早めに着いたから学園に向かっても大丈夫か、と彼女の元担任である陽日に電話をしたら、迎えをよこすから待っておけと言われてしまったのだ。
 暇になった月子は懐かしい街を歩き回る。それから、海岸を歩いているといつの間にか灯台の前に来ていた。
「……灯台、か…。まだ入れるのかな」
 いまは無人となっている灯台。この灯台に月子は一度だけ入ったことがある。大切な人と一緒に。
 そっと、そのドアノブを回してみる。すると、それは容易に回り、ドアが開いた。それはまるで月子の心の記憶を開くかのように。

* * *

「これからどこに行くんですか?」
 とある休日のお昼頃。彼女のクラスにて教育実習をしている水嶋郁に月子は呼び出されていた。
「ちょっと、ね。ロマンティックなところと言えばいいのかな」
「郁の口からロマンティックなんて言葉が出てくるとは思いませんでした。今日は何かおかしなものでも食べたんですか?」
「月子も言うようになったね。別におかしなものなんて食べてないよ。せっかく恋人同士なんだから、たまにはデートっぽくロマンティックな場所に行こうかなぁって思っただけ」
 恋人同士、と月子は小さくつぶやく。今の彼と彼女の関係はただの教育実習生と生徒、という関係ではない。恋愛ゲームという名の中でのプレイヤー。一ヶ月間、偽りの彼氏と彼女、という設定。
 月子が恋に落ちたら、または水嶋が月子の理想論を受け入れたらその時点でゲーム終了。このゲームを始める前から、水嶋は自分の勝利を確信していた。
 だけど時々月子はこの関係がごっこ≠ナあるのを忘れてしまう。それぐらい、水嶋と一緒にいることが当たり前になっている。だから、月子は水嶋の誘いを断らなかった。
 水嶋は学園を出て、街へ行くバスを待つよ、と月子に告げた。




Let's eat Sweet LOVE!

 郁を見送って、少しだけ彼の部屋を片付ける。あまり自分のものに触って欲しくない、と言われているがお世話になったのだから見える範囲を掃除した。
「さて、これからが問題なんだよね……」
 月子は持ってきたノートパソコンを立ち上げる。後期試験が始まる前から真琴と相談していたチョコのレシピはいくつかあった。
(トリュフにチョコブラウニー、それに生チョコとかいろいろと考えていたんだけどなぁ……時間と技術的な問題で無理、かな)
 考えていたチョコのレシピをざっと見直す。ほかにももっと簡単な材料で手軽に作れそうなレシピがあるのだろう、と月子は考えるのだが。
「作るとしたら郁のキッチンだし、本当に変なものができちゃって迷惑かけたらどうしよう……」
 料理の腕は確かにあがった。それでも、少しだけ背伸びをして失敗するのが怖い。それに、
(郁の言うとおり。私は嫉妬しているんだ……)
 きっと料理上手な女の人はこの世にたくさんいる。自分が在学中にはいなかった女子が、今の学園には三割ほどいるという。だから、彼女たちからもらったチョコが自分のチョコよりも美味しかったら、と思うと嫌になる。
「本当にどうしようかなぁ……」
 難しいのは作れない。なら、簡単なものをと思って検索をいろいろとかけてみる。どれもおいしそうだし、簡単に作れそうだと思ってもピンと来ない。
「あっ……これなら…」
 月子はとあるレシピに目をつける。しかし、これがバレンタインのチョコとしてあげるのにふさわしいのかどうか疑問に感じる。
(でも、ちゃんと私が考えて、私が準備するんだから納得してくれるよね)
 月子はメモを取り出して、材料を書き出していく。二人で食べるものだから量は少なめに。それでも、種類が豊富にあったほうが楽しめるかも知れない。
(あまったらゼリーでも作ろうかなぁ)
 最後にゼラチン、と付け加えて材料のメモを書き上げる。
(これで郁は喜んでくれるかな……)
 不安はあるが、意表をつくようなチョコだ。月子は出かける準備をして、近くのスーパーへと買い物に出かけた


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