覚醒を促すように、髪を梳きながら頭を撫でる温かさに意識が浮上する感覚に逆らわず、ゆるりと瞼を持ち上げると、ぼんやりとした視界に入るのは見慣れない天井。

「ここ、は?」

寝起きの掠れた声に、ふふふと楽しそうに笑う声。

頭を撫でる手はそのままに、レイトンはデスコールの視界に入る。

「おはよう、デスコール。あまりにも起きないから、薬の量を間違えたかと思ったよ」

ぼんやりとした視界が徐々にはっきりとしてくると、優しい笑みを浮かべるレイトンが見えた。

「くす、り?」

視界ははっきりしたが、薬の影響が残っているらしいデスコールの頭は上手く動かない。

「君に撃ったのは麻酔銃だよ。出来るだけ、傷は付けたくなかったからね。手当てもちゃんとしてあるから、安心して?」

レイトンの説明を聞いていくうちに、思考がクリアになっていく。

「麻酔…か。全く。君は何を考えているんだい?」

まだ、体が僅かなダルさを訴える為、デスコールは起き上がる事を諦めて、そのままの態勢でレイトンへ返事を返す。

「考えてる事なんて、簡単だよ。デスコール。君を捕らえて、傍に置く。ただ、それだけだよ」

変わらない笑みで、はっきりと言い放つレイトンに、デスコールは背筋が凍る感じがした。

「君の部屋は、この寝室と、隣に書斎。欲しいものがあったら、遠慮しないで言うといい。出来る限りで用意するから」

デスコールが無言なのをいいことに、レイトンは続けた。

「あぁ。身の回りの世話をする人が必要だよね?執事を呼んできてあげよう。何処に居るか教えてくれるかい?」

「素直に教えると?」

顔を背ける事もせず、デスコールが冷たく返せば、レイトンは笑顔のまま首を傾げた。

「なら、私が世話をしようか?」

「……私が連絡を入れる。待ち合わせればいいだろう?」

恐怖を煽るだけのレイトンの言葉に、デスコールが折れた。

「仕方ないね。それでいいよ。どうやって連絡入れるんだい?」

「私のジャケットは?」

「ここにあるよ。外套は扉の横。仮面は外さないでおいたけど」

デスコールに言われ、ジャケットを差し出す。

受け取ったジャケットのポケットをゴソゴソと探りながら、デスコールはチラリとレイトンに顔を向けた。

「…すまないが、少し外してくれないか?」

「連絡手段は秘密かい?ふふふ。いいよ。紅茶は飲めるかな?淹れてくるから、それまでに済ませているんだよ?」

未だに動けないでいるデスコールの体を起こして、背中にクッションを置いてからレイトンはデスコールにあてがった寝室から出て行った。

「何故、ああも変わってしまったのか」

狂気を孕んだ雰囲気を漂わせながらも、変わらない優しさを見せるアンバランスさにデスコールはゆるりと頭を振った。