彼が好むからと、部屋の明かりを全て消して、蝋燭を灯して、呼び出した部下が現れるのを待つ事数分。

コンコン、と二回、ノックの後に入室の許可を求める声に、相手に見えないからと薄笑み浮かべて許可を出せばオドオドと怯えた様子で入ってくる呼び出した部下。

「私の部下に変装するのは、悪趣味だよ。ジャン・デスコール」

扉が閉まるのを待って、ニコリと笑みを浮かべて言えば、相手は大袈裟なくらい震えた。

「き、教授。なんの事だか、判りません」

ビクビク、オドオドする部下に笑みを深めてもう一度、名前を口にする。

「ジャン・デスコール。何時まで、その姿でいる気だい?」

「やれやれ。一体、何時から気が付いていたのか」

何処から取り出したのか、外套がバサリと音を立てて姿を隠した一瞬後にはフォーマルなダークスーツに身を包み、首を隠すファーに耳当てと帽子に顔の半分を隠す白い仮面。

変わらない姿を見せたデスコールに、レイトンはふわりと微笑んだ。

「久しぶり。デスコール」

「久しぶりだな。レイトン」

変わらない男と、変わりすぎた男。

デスコールが音も無く近づけば、椅子に座っていたレイトンが立ち上がったものだから、重厚なデスクを挟んで向かい合う形になった。

「さて、レイトン。彼の部下が私だと、何時から気が付いていたのか教えてもらいたいのだが?」

「簡単な事さ。彼はつい先日、弾除けになって今はベッドの住人なんだよ」

デスコールの質問に、笑みを崩さずにレイトンは答えた。

「ふむ。調査ミスだな」

「ふふ。変装自体は、完璧だったよ?ただ、たまたま弾除けになった部下の顔を、私が覚えていた。それだけだよ」

クスクスと笑いながら説明するレイトンに、デスコールは相手に見えないと解っていながらも眉をしかめた。

「その言い方だと、部下の顔を覚えない、ととれるが?」

「否定はしないよ」

溜息を吐いて、呆れを隠さないデスコールに、レイトンは笑みを浮かべたまま。

「色々と、積もる話はあるけど…まず、質問に答えてくれるかな?」

椅子に座り直したレイトンは、ゆったりとした動作で指を組む。

「答えられるものなら」

「それで構わないよ。姿を消した後、何をしていたんだい?」

「……仕事の報酬で得た別荘に。執事とのんびりしていたが?」

「君は、私が必死に行方を探しているときに、執事とお気楽極楽隠居生活をしていた、と?」

「そうなるな」

ニコニコと笑みを浮かべているのに、怒気を放つレイトンに、デスコールは我関せず、な表情―口元しか見えないが―を見せている。