特に会話をするわけでもなく、2人は長い廊下を歩いている。

そして、1つのドアの前で足を止めたレイトンの一歩後ろでレイモンドは止まった。

「デスコール?起きているんだろう?」

言いながら、軽いノックをして相手の返事を待たずにドアを開けた。

「せめて、返事くらいは待ってくれないか?」

笑いながらレイトンに注文を付けるデスコールは、ベッドの上で優雅に読書をしていた。

「旦那様!どこかお加減が?」

デスコールの姿を見て、笑みをこぼすレイトンに気付かずに、レイモンドはデスコールに走り寄る。

「どこも悪くは無い。強いて言えば、お茶が欲しい」

のどの渇きを訴えたデスコールに頷き、レイモンドはレイトンに振り返る。

「階段の所に居る者に言えば、案内してくれるよ」

ドアを塞ぐ形で立っていたレイトンが僅かに体をずらして道を空ければ、レイモンドは一礼して出て行った。

「肩の傷の事は言わないんだね」

ベッドに腰掛けて、デスコールの右肩を指差せば、デスコールは一蹴した。

「ほぼ治っている傷を教えてどうする?」

「跡が残るじゃないか……やっぱり、紅茶にするんだった」

麻酔銃を使っておいて、レイトンは眉間に皺を寄せてブツブツと言っている。

「正体暴きをする前に、使うべきだったな。まぁ、一塊の下っ端がボスの淹れた紅茶なぞ恐れ多くて、飲めないがな」

「そうなんだよ。それを考えたら、やっぱり撃つしかなくてね」

デスコールの笑いを含んだ言葉に、レイトンは真面目に返す。

そしてトン、と右肩の銃創を人差し指を突き付ける。

「この傷を手当てするときは驚いたよ」

「殆ど、傷が無いから…か?」

「その通り。あれだけ暗躍していて、傷が少ないなんて、凄いな〜と」

「銃弾なんぞ避けられる。これは、まさか君が撃つとは思わなかったからな。油断しただけだ」

開いたままのページに栞を挟んで、ゆったりとした動作で本を閉じながら、不敵な笑みを浮かべた。