コンコン、と控えめなノックの音に、必死でペンを紙に走らせていたレイトンは顔を上げた。

「はい。どちら様?申し訳ないのだけれども、今は手が放せなくてね。勝手に入るか、後にするか、を選んでくれるかい?」

顔は上げたが、席を立つ事もせずに手元の資料をパラパラと捲るレイトンの耳に、ドアノブがゆっくりと回される音が聞こえた。

「今度は、何の締切に追われているんだ?」

静かに開いた扉から顔を覗かせたのは、何時かの青年に変装したデスコール。

「デスコール。なにしに来たんだい?」

声音を変えていないデスコールに、レイトンは笑いながら訊ねた。

「借りた本を返しに来ただけだが……」

常に物が散乱しているレイトンの研究室は、以前に訪れたときより酷い有り様で、レイトンも同様に酷い有り様になっている。

「ちょうどいい。君、暇だろう?資料作りを手伝って欲しいんだけど」

デスコールに頼み事をしつつもペンを動かすのを止めないレイトンに、デスコールは持っていた本をテーブルに載せて背後に立つ。

「手伝ってくれるのかい?」

背後を取られたレイトンがやっとデスコールに顔を向けた。

「お嬢さんに手伝ってもらえ。その為の助手だろう」

「無理だよ。コレ、レミには難しすぎるから。まぁ、時間をかければ出来るだろうけど、時間がないんだ」

デスコールに紙の束とペン、そして分厚い専門書を渡したレイトンは走り書きでメモした紙も押し付けた。

「……なる程」

専門書とメモを交互に眺め、納得したデスコールは素直にテーブルに広げた。

「ありがとう。助かるよ」

「本を借りた礼だ」

「そう?」

テーブルに乗っていた邪魔な物を退かして、ソファに座りながら専門書をペラペラと捲る。