『ウソ』


「シキ。エイプリルフールって、何だ?」

昼過ぎに街に食料を買いに行っていたアキラは、夕方近くに帰ってくるなり真剣な面持ちで問いかけてきた。

「・・・・・・知らなかったのか?」

刀の手入れをしていたシキは呆れながら、アキラに問いかけると、ゆっくりと頷かれた。

「四月一日の一日だけ、嘘を付いても許される、と言う日だったか。四月馬鹿という言葉もあるぞ?」

アキラを馬鹿にするように笑いながら言うシキに、アキラは刀を壁に立て掛け、買ってきた食料をテーブルに置いた。

「アンタって、本当に一言、余計だよな」

不貞腐れ気味に文句を言ったアキラ。

「教えてもらっておいて、随分な言い草だな」

刀身のチェックをしているシキからは、アキラの表情など見えないだろうに、シキは意地悪く笑う。

「笑うなよ」

シキに笑われたと解ったアキラはムスッとしたままでシキの顔を見た。

口の端を吊り上げて、冷ややかな笑みを浮かべるシキをアキラが睨みつけると、シキの笑みはより深くなった。

「ちくしょう」

アキラは悔しそうに呟いて、シキから目を逸らすと、買ってきた食糧の整理を始めた。

「明日の朝、早くに発つからな。刀の手入れもしておけよ?」

機嫌が悪くなりつつあるアキラを置いて、シキは風呂場へと向った。

シキが風呂場へと消えて数秒後、アキラは鞄に食料を詰めると壁に立て掛けておいた刀を手に取った。

シュラ・・・と音を立てて刀身を鞘から抜いて、刃こぼれの確認をしてから、手入れを始めるアキラ。

始めの頃など、手入れの仕方が解らなくて悪戦苦闘したあげく、シキから嫌味を言われつつ習いはした。

流石のシキでも本格的な研ぎは出来ないらしく、舌打ちをしていたのを忘れない。

カチャン、と音を立てて、手入れの終わった刀身を鞘に収めると、珍しく長風呂をしてたシキが風呂場から出てきた。

「アキラ。刀の刃はどうだ?」

わしわしと髪を拭きながらシキは刀の手入れが終わったばかりのアキラに話しかけた。

「刃こぼれはしてないけど、そろそろヤバそうかな。どうする?」

アキラの言葉に、シキは己を刀を視界に入れると、口を開いた。

「行き先を変えるぞ」

「何処へ?」

元々、行き先を決めていた事など少ないが、今回はシキの希望で行き先−目的地−があった。

シキはソレを変更すると言う。

「刀を研ぎに出す。刀身次第では打ち直しになるかもしれん」

刀から視線を逸らさず言うシキに、アキラは驚いた。

「研ぎ・・・打ち直しって・・・・・・嘘だろ?」

「嘘を言ってどうなる?その刀を打った刀鍛冶がこの近くにいる」

アキラの刀を差して説明するシキに、アキラは自分の刀とシキを交互に見比べた。

「コレ、打たせたのか・・・」

「当然だろう?お前の身長に合わせたからな。使いやすいだろう?」

「うっ」

シキの刀はアキラには刀身が長すぎて使い辛かったのだが、シキは自力で動けるようになってから、暫くして、何処からとも無くアキラ用だと言って刀を一振り持ってきた。

その刀を打った刀鍛冶が近くにいるなら、刀をちゃんと研いだ方がいいと言う、シキの言い分は理解できたアキラだが、シキの情報網の広さは未だに理解出来ていない。

「シキに任せる。元々、今回はシキが行き先を決めていたからな」

シキの情報網の広さを気にしていても仕方ないので、アキラはシキの問いに溜息を吐きつつ答えた。

「なら、とっとと風呂に行け。明日は早いぞ」

「解ってるよ」

言いながら、アキラはシキの横をすり抜けて、風呂場へと向った。

風呂場のドアが閉まる音がして、シキはアキラが腰掛けていたベッドに腰掛けた。

「エイプリルフールか・・・久しぶりに聞いたな」

クスクスと笑いながらシキは窓の外を眺める。

エイプリルフールが終わるまで、後数時間。

シキはアキラがどう言う行動を取るのか楽しみにしながら目を閉じた。